『資本主義はどこに向かうのか 資本主義と人間の未来』

2019年7月12日 印刷向け表示
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 HONZで自画自賛本のコーナーが立ち上がったということで、この場を利用して『資本主義はどこに向かうのか―資本主義と人間の未来』を宣伝させて頂きたい。

今回は、資本主義研究会が公益財団法人生存科学研究所の自主研究事業として、過去約30回にわたって開催してきた「資本主義の教養学 公開講演会」シリーズの中から、人間という存在を自然科学的・社会科学的な見地から総合的に捉え直し、その上で資本主義を人間という視点から再考するという主題に最も近い講演を選んで、一冊に編集したオムニバス形式になっている。

従って、私は著者の一人兼編者であり、正確に言うと完全な自画自賛という訳でもない。下記の目次にあるように、本書に参加してくれたメンバーは学界を中心に各界の精鋭ばかりである。普段はなかなか交わらないような、こうした英知を横断的につないだのが資本主義研究会であり本書なのである。

目次

はじめに/堀内 勉

第I部 資本主義の思想的背景

1 資本主義と普遍/中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)、大澤真幸(社会学者)

2 資本主義は二一世紀でも通用するのか――哲学的考察/岡本裕一朗(玉川大学教授)

第II部 現代資本主義社会が内包する課題

3 金融資本主義の基本概念の再考察――ファイナンスの哲学/堀内勉(多摩大学社会的投資研究所 教授・副所長)

4 日本型の資本主義の可能性――渋沢栄一の合本主義を見直す/渋沢健(シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役、コモンズ投信会長)

5 資本主義はどこへ向かうのか――格差・日本経済・テクノロジー/安田洋祐(大阪大学大学院経済学研究科 准教授)

第III部 資本主義への新たな人間的アプローチ

6 脳科学から見えてくる資本主義――自然科学と人文学・社会科学の架橋融合/小泉英明(株式会社日立製作所 名誉フェロー、日本工学アカデミー上級副会長 他)

7 ゲノム人類学から見た資本主義――“幸運者生存”の法則にもとづくヒトの進化/太田博樹(東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・教授)

8 人工知能の技術進展と資本主義/松尾豊(東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授)

第IV部 資本主義の行方

9 資本主義の終焉と歴史の危機――二一世紀の利子率革命が意味するもの/水野和夫(法政大学教授)

10 際限のない欲望と資本主義の行方――経済史から見た新しい規範の社会的条件/小野塚知二(東京大学大学院経済学研究科教授)

11 ポスト資本主義/広井良典(京都大学こころの未来研究センター教授)

おわりに/小泉英明

そもそも資本主義研究会を立ち上げることになったきっかけは、自分自身が1997年から始まる日本の金融危機と2008年の世界的な金融危機(リーマンショック)の両方の直撃を受けた経験から、現代社会のOS(オペレーティングシステム)として既成事実になっている資本主義の問題をしっかり研究しようと思ったことである。

そして、その前提として、共産主義とか新自由主義とかいう主義主張や好き嫌いの前に、もっと人間に焦点を当てた自然科学的な視点から、なぜ我々人類は資本主義という制度を選択したのかについて、冷静な議論をしたかった。そして、そのためには人間というものに対する哲学的な洞察も不可欠だと感じた。

主義主張や好き嫌いの議論になってしまうのであれば、結局のところ「強い者が勝つ」という当たり前で身も蓋もない結論になってしまい、それは我々が常日頃実感している資本主義のロジックそのものであり、そうした議論には何の発展性もないと思ったからである。

そこで、世界中の哲学に通じている碩学の中島隆博氏、脳科学の権威でありあらゆる学問分野に幅広い知見を持つ小泉英明氏、DNA研究と動物行動学の権威である太田博樹氏、日本の資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一の玄孫で金融の世界で「コモンズ」の概念を提唱するの渋沢健氏、リーダーシップのコンサル会社を経営する黒田由貴子氏といった、思いを同じくする有志と共に研究会を立ち上げた。そして、後に「社会的共通資本」の宇沢弘文先生の長女で医師の占部まり氏にも加わってもらい、今日に至っている。

本書には「・・・すべき」という結論はない。しかしながら、我々が好むと好まざるとに関わらずその中で生きている資本主義社会がこれからどこに向かうのか、そして我々はそれに対してどう対峙してどう能動的に働きかけていくのか、その重要な出発点になると信じている。

今、世界を見渡せば全ては霧に包まれ、我々の行方を示してくれる指針は見当たらない。自分自身が自分を照らすともし火となって前に進まなければならない時代なのである。そうした中で、全ての読者にとって本書が良き手引きとなってくれることを願っている。

そうした意味で、本書はビジネスパーソンだけでなく、年齢や性別や職業を問わず、あらゆる分野の方にお勧めしたい一冊である。

尚、8月2日(金)に、東京大学本郷キャンパスの山上会館大会議室で、本書の執筆陣による出版記念シンポジウムを開催するので、ご関心のある方は是非こちらより申し込みして頂きたい。本公開講演会は、生存科学研究所の研究活動の一環として行われるため、参加費は無料となっている。

日本医師会の元会長の武見太郎氏が立ち上げた生存科学研究所は、人間の生存の条件について、当初は医学的見地だけから研究を行っていたのだが、そこには経済の視点が不可欠であるという問題意識を持つに至り、資本主義研究会にお声がけ頂いた。誠に時宜を得た判断だったと思う。

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