『イージス・アショアを追う』国の防衛政策を徹底検証、地方新聞の戦いの記録

首藤 淳哉2020年02月22日 印刷向け表示
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イージス・アショアを追う
作者:秋田魁新報取材班
出版社:秋田魁新報社
発売日:2019-12-21
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発端は、読売新聞の記事だった。2017年11月11日の朝刊で「イージス・アショア」という新たなミサイル防衛システムを国が導入するにあたり、秋田と山口が配備先に挙がっていると報じた。

地元紙・秋田 魁(さきがけ) 新報の記者たちは当初、イージス・アショアがどのようなものか知らなかった。だが、自分たちの街がミサイル防衛の最前線に位置づけられそうになっていることだけは理解できた。手探りの状態から取材が始まる。やがて彼らの取材は、国の防衛計画のずさんさを明るみに出すスクープに結びつく。

イージス・アショアは、地上配備型のミサイル迎撃システムである。本書は、この最新の防衛装備の配備計画をめぐる秋田魁新報の足かけ2年にわたる報道をまとめたものだ。一連の報道は19年度の新聞協会賞を受賞した。人員やネットワークで全国紙に遠く及ばない一地方紙の奮闘ぶりに胸が熱くなる一冊だ。

取材は困惑の連続だった。具体的な配備先は秋田市の陸上自衛隊新屋演習場とされていたが、専門家に聞いても、秋田でなければならない理由はないと口をそろえる。しかも演習場の近隣は住宅が密集し、学校や病院もある。なぜわざわざ市民を危険にさらすような場所が選ばれるのかわからなかった。

防衛省と県の初めての会談は、政務官が新屋演習場を何回も「駐屯地」と言い間違えるというお粗末なものだった。普段は無人の空き地の演習場と、大勢の自衛隊員が駐在する駐屯地を混同するなどありえない。不安を抱く地元に対しあまりに失礼だった。記者たちの心に火がついた。

限られた取材費をやり繰りし、記者は海外にも足を運んだ。世界で唯一、イージス・アショアが稼働しているルーマニアである。配備地は広大で、人里離れた場所だった。取材の結果、ミサイル発射時にブースターが落下し、落下先はコントロールできないことなどがわかった。基地の司令官は、安全を確保するためには「基地の周りに住宅を造らないこと」と明言した。

そして19年6月5日、秋田魁新報は決定的なスクープを放つ。防衛省が7カ月もかけてまとめた「適地調査」の報告書に、ずさんなデータの記述があることを発見したのだ。それは山の断面図だった。8つの国有地を比較し、近くにイージス・アショアのレーダー波を遮る山があることを理由に、いずれの場所も配備に適さないと結論づけたものだ。ところがその中に、山を見上げた角度が不自然な図が含まれていることに記者が気づいたのだ。報告書は、最初から「新屋ありき」でまとめたのではないかと疑われても仕方のない代物だった。

記者たちは、文字どおり徒手空拳で国の安全保障問題に切り込んでいった。彼らを支えていたのは「学校や福祉施設が立ち並ぶ住宅街に隣接する土地が、配備の適地であるわけがない」という信念である。その思いは、優れた調査報道として結実した。

本書は、ジャーナリズムにはまだまだできることがあると教えてくれる。公文書廃棄問題など、国のシステムのあちこちにほころびが生じている今、下を向いている場合ではない。全国の記者たちよ、顔を上げよう。ジャーナリズムはまだ、死んではいない。

 ※週刊東洋経済 2020年2月22日号

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