『下級国民A』格差社会が生み落とすもの、美しい国の不都合な真実

鰐部 祥平2020年04月04日 印刷向け表示
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下級国民A
作者:赤松 利市
出版社:CCCメディアハウス
発売日:2020-02-29
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本書は62歳で「住所不定無職」の新人作家として鮮烈なデビューを果たした作家、赤松利市が経験した、東日本大震災の復興事業に関するルポルタージュだ。

著者、赤松は35歳で起業し、一時は年収2000万円を超えていた。しかし、ある事情により会社は倒産。以後、厳しい生活を強いられる。

そんな折、東日本大震災が発生。土建業を営む知人の社長から相談を受ける。震災後の復興バブルに乗るべく専務である息子を東北に派遣するので、「営業部長」となって同行してほしい、儲けが出れば半分は赤松の取り分にするという内容だ。土木業は未経験だが、儲けを出せば利益の半分を手にできる。人生逆転のチャンスだ。そう思い仕事を引き受ける。

だが、そのもくろみはすぐに崩れさる。復興バブルに便乗するべく東北に集った零細企業たちが、大手ゼネコンのように現場全体を請け負うことは不可能だ。零細企業は、大手が請け負った現場に作業員を派遣する、人工(にんく)出しと呼ばれる形態での参入になる。派遣した作業員の頭数で儲けが決まる。専務は「部長さんにも作業員してもらいまっせ」と言い出す。抗議もむなしく、赤松は一作業員として派遣されることになる。

同僚となる作業員は非正規の日雇い労働者たちだ。彼らは一様に幼稚で劣等感が強い。そして、幼児性の裏返しか、理解できないくらい怒りの沸点が低く、すぐにキレる。

彼らの習性に辟易しながらも、赤松は、彼らだけが悪いのかと自問する。貧困家庭出身者が大多数で、満足な教育も受けていない者たち。彼らは社会のひずみが生み出した存在でもある。

働き方改革、生涯現役、人生百年時代という掛け声の下で非正規労働者の数は増え続けている。広がり続ける貧富の格差の中で、池袋で母子を轢殺(れきさつ)した「上級国民」は逮捕されない不条理がまかり通る。これが日本の現状だ。上級国民があるなら「下級国民」も存在する。そして今は自分も「下級国民」だ。

とはいえ大卒の赤松はすぐに作業員の中で浮いてしまう。そこから、読むのが辛(つら)くなるほどの陰湿ないじめを受けるようになるのだ。

このあたりの機微は私にも痛いほどわかる。私も、中学にはろくに通わず、高校は中退。若い頃は非正規労働の仕事を転々とした経験がある。持たざる者たちは、わずかな差異にも敏感だ。そこから厳格なヒエラルキーをつくり出す。日ごろ社会から抑圧されているために、仲間内のヒエラルキーは厳格で容赦がないものとなる。

復興事業で全国から日雇い労働者が押し寄せたために、露骨な形で抑圧が行われる。大手ゼネコンの現場所長が朝礼で作業員のことを「下賎(げせん)の者」と言い放つ。後に赤松も参加する原発事故の除染作業員は人間以下の扱いを受けていた。スーパーで商品に触っただけで地元住民から罵倒され、ゼネコン社員が行う説明会は脅迫まがいの内容だ。たまったフラストレーションは「下級国民」内の最弱の者へと向けられる。

本書の価値は、この見えざる真実をあぶり出したことだ。格差が拡大し続ける今、赤松が見た世界はいずれ顕在化してくる。私たちのすぐ隣で。

※週刊東洋経済 2020年4月4日号

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