『博士の愛したジミな昆虫』

出口 治明2020年04月27日 印刷向け表示
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博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)
作者:
出版社:岩波書店
発売日:2020-04-18
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本書を一瞥しただけで読みたくなってしまったのは、わが国の伝統である本歌取のなせるわざだろうか。それとも、原色日本昆虫図鑑(保育社)をボロボロになるまで引いていた元昆虫少年の先祖返りだろうか。あるいは、可愛すぎる表紙のイラストが僕を引き寄せたのか。そんなことは、どうでもいい。めちゃ面白い本だった、という読後感が全てを物語る。

本書には、子どもたちが大好きなカブトムシやクワガタムシ、美しいアゲハチョウなどの主役級は一切登場しない。モンシロチョウやゾウムシ、アリやアブラムシなどジミな昆虫に魅せられた10人の研究者が、「食べもの選び」、「植物との深いつながり」、「虫たちを結びつけている複雑な関係」、「外来種」、「虫たちの共存」をテーマとする5章を2人づつ分担執筆し、思う存分、蘊蓄(研究の成果)を語ってくれる。どこから読んでもびっくりすること請け合いである。

人間を含めた動物は、次の世代のために生きている。即ち、子孫を残すことが最大の目的なのだ。ホモ・サピエンスのメスは、一生の間に5人前後の子どもを産むように設計されている、という話を聞いたことがある。文明化する以前の生活では幼少期に2~3人は事故や病気で亡くなるので、成人するのは2人前後。つまり、人口がほぼ一定するように設計されているらしいのだ。でも、昆虫の世界は事情が全く異なる。僕は偶然が重なって生命保険会社に就職したので生命表には馴染みがあるが、ナナホシテントウムシの生命表を見たのは本書が初めてだった。それによると、366個の卵から成虫になるのはわずか17匹。成虫までの総死亡率は、95.4%に達する。昆虫は、多産多死の戦略を採って約4億年前から生き延びてきたのだ。

モンシロチョウは平均386個の卵を産むが、幼虫のまわりはアオムシコマユバチ(寄生蜂)など天敵だらけである。モンシロが羽化するキャベツ畑は寄生者も羽化する生息場所で収穫前の畑では寄生率が75~100%に達するが、できたばかりの畑での寄生率は25%。つまり新しい畑は天敵不在空間であり、モンシロの生存戦略は、寄生者に対する感受性の高い時期(1~5齢期)を、新しい畑の暖かい環境で速やかに成長することでやり過ごすこと(逃げるが勝ち)なのである。

植物も逞しい。コナガの幼虫に食べられたキャベツは匂いを出して寄生蜂(コナガサムライコマユバチ)を誘引する。コナガの幼虫は蜂に産卵されて寄生されるので、それ以上食べられるのを防ぐわけである。これが、三者系と呼ばれる関係である。しかし、コナガもさるもので、モンシロチョウの幼虫が食べているキャベツを食べるとキャベツの出す匂いが異なり、寄生蜂は誘引されないのである。コナガとモンシロチョウは、同じキャベツを食べるライバル関係だけではないのだ。「コナガ、凄い!賢い!」。

以上、本書のごく一部をかいつまんで紹介してみたが、本書の面白さの一端がわかっていただけただろうか。

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