しなやかに死を語る軽やかな対談 『いつか来る死』

2021年1月16日 印刷向け表示
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いつか来る死

作者:糸井重里 ,小堀鷗一郎
出版社:マガジンハウス
発売日:2020-11-12
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『死を生きた人びと─訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)、2年ほど前に本屋さんで購入した。著者の名前、小堀鷗一郎を見ると、わたしと同じく、ひょっとしたらと思われるかもしれない。ご明察、森鷗外の次女、小堀杏奴のご子息である。

食道がんを専門とする外科医であったが、定年後は在宅患者の訪問診療にたずさわっておられる。そして、サブタイトルにあるように355人の患者を看取り、考えられた内容の綴られた本がこれだ。天性のものなのだろうか、さすが文章が素晴らしい。

NHKスペシャル「大往生~わが家で迎える最期」が放送されたのをごらんになられた方もおられるだろう。その「老老診療」は優しいだけでなく、時には厳しい。あぁこういう診療をなさるのかとすこし驚いた。

その小堀先生とコピーライターの糸井重里さんの対談をまとめたのが『いつか来る死』(マガジンハウス社)である。写真ページも含めて150ページ足らずの薄い本だけれど、とても内容が濃くていろいろと考えさせられる一冊になっている。

70歳を超えた糸井さんが、死について語り合ってみてもいいと思って始められた対談。「死は『普遍的』という言葉が介入する余地のない世界である」という『死を生きた人びと』に出てくる言葉についての語らいから始められる。本を読み進めるにつれ、この言葉の重みがわかってくる。

とてもソフトなタッチの対談風景のカラー写真がたくさん載っている、その撮影者は幡野広志さん。2017年、35歳の時に多発性骨髄腫と診断され、余命3年と宣告されたカメラマンである。2歳になる息子に向けて書かれた『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)は、どれだけうなずきながら読んだことだろう。

「死は別世界の出来事」、「最後まで酒を飲む、その人らしい死に方を目指す」、「家族の最期には立ち会うべき。それって本当?」、「死について考えるのは、生きるについて考えること」、「死は『俺がいない』、ただそれだけのこと」など、刺激的なセクションタイトルを眺めているだけで十分勉強になる。

とりわけ重要なメッセージは、「『縁起でもない』をやめよう」、「どんな死を望むのか、普段から考えておく」、「死を健康に考える、死と手をつなぐ」だろう。まずは死を考え、語り合うこと。それが何より大事なのだ。

日本医事新報2011年1月16日号『なかのとおるのええ加減でいきまっせ』から転載

死を生きた人びと――訪問診療医と355人の患者

作者:小堀 鷗一郎
出版社:みすず書房
発売日:2018-05-02
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小堀鷗一郎先生、訪問診療の記録です。
 

ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。

作者:幡野 広志
出版社:PHP研究所
発売日:2018-08-21
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この本の写真を撮影した幡野広志氏、不治の病に冒され、息子に伝えたいこと。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!