今、あんまり海に行けなくないですか?家にすごく近くない限り。行ったとしても、行ったとか言えないですよね、なかなか、多分。だってこういうご時世ですしね。
海。
海いいですよね。
海。
私も、海の良さを知ったのはここ数年です。出身が神奈川県藤沢市なんで、ばりばり海っぽいじゃんて思われがちなんですが、違う。藤沢市は南北に長い。南は海と街があり、北は田んぼと畑と工場しかない。そして、私が中学まで過ごした地域は、北部の中でもすごい僻地でした。そこは海から遠く、歩くと5時間かかりました。
海はもともと距離的にも心理的にも遠い、強いて言えば「なんか生臭いところ」で、たまに行っても楽しみ方がわからない場所でした。
でも、私は今、海が好きです。
きっかけは、磯遊びでした。生きもの好きの友人ができ、磯に行って遊んだのです。
磯の良さは、磯に座り込んでやっとわかりました。座ってしばらくぼーっとしてると、じわじわと、たくさんのものがうごめきだします。まず、ヤドカリ。岩の下から這い出すハゼ。水面をきらめく小魚の群れ。石かと思ったらカニ。存在感あるアメフラシ。突然のウミウシ。磯の体感密度がどんどん膨らんではじけそうになります。
茫洋としていた海が、磯を足がかりに、私にとって生き物に満ちた場所となりました。
その、生き物で満ちた海を存分に味わえるのが、本書です。
ページを開くと、まずビジュアルで殴られます。B4変型という大きい紙面にインパクトのある写真が並んでいるのですから。そのうち、砂に水がしみこむように、細やかな解説が流れ込んできます。
ここで、日本語版監修の遠藤秀紀先生の序文を引用します。
ぱらぱらめくると、数え切れない海の生き物が、分厚い頁に所狭しと躍っている。ほとんどの読者にとって見たこともない生物が、随所に溢れんばかりに描き込まれている。一方で、クジラだタコだイソギンチャクだ海藻だと誰もが知る生き物の紙面には、繰る者を隠された謎へ導く扉がしっかりと開かれているではないか。
図鑑ですし、どこから読んでも楽しいのですが、構成としては、「岩石海岸」、「砂質海岸」、「河口と干潟」「マングローブ林と塩湿地植生」「サンゴ礁」「沿岸海」「外洋」「極域海洋」と、一般的に身近な場所から遠い場所へ進むかたちになっています。
冒頭、「岩石海岸」では磯の地衣類、海藻、タイドプールで生きるイソギンチャクやカニ、「砂質海岸」「河口と干潟」では砂浜で漂着物をあさる鳥たちなどの見知ったものたちが、ドラマチックな写真と細部を穿つような解説により紹介されます。
「サンゴ礁」「沿岸海」に生きる魚やヒトデたちの鮮やかさ。「外洋」の魚の群れやイカ、クジラのダイナミックな泳ぎ。プランクトンたちの繊細さ。「極域海岸」では、もちろんシロクマやペンギンも登場します。
また、それぞれの見開きタイトルは、「しがみつく」「くちばしを振って探す」「足で釣る」「逆さまの生活」「刃をもつ魚」「刺さる剛毛」「新たな海洋底」など、新鮮な切り口になっています。
海水の苦さのような少しマニアックな解説も、読むほどに美味しく感じられるようになるはずです。(解説内容の正確を期すため、かつわかりやすくするために、日本語版監修の遠藤先生と長谷川和範先生には、数え切れないほどのご助言・ご教示をいただきました。この場をお借りしてお礼申し上げます。)
全体を通して、海のように様々な表情を見せる図鑑となっています。
最後にもう一度、遠藤先生の序文から一文を。
『OCEAN LIFE 図鑑 海の生物』が、海の生命と読者を結ぶ、末永い交流の場となることを願おう。
海が詰まったこの本が、海を求める方々に届きますように。
東京書籍 編集部 角田晶子
同じ編集者が編集。2017年「HONZ今年の1冊」にHONZメンバー2人から選ばれ「野ぐそ戦争」を引き起こした衝撃の奇書(詳細はリンク先の記事参照)。以下も同じ編集者によるもの。