10月の地震と噴火に驚いた人は『歴史のなかの地震・噴火』を読め

鎌田 浩毅2021年10月27日 印刷向け表示
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歴史のなかの地震・噴火: 過去がしめす未来
作者:加納 靖之 ,杉森 玲子 ,榎原 雅治 ,佐竹 健治
出版社:東京大学出版会
発売日:2021-03-24
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10月7日に首都圏で震度5強の強い地震があり、75000台のエレベータが停止し28件の閉じ込め事故があった。東京23区でこうした強い揺れを観測するのは、2011年に東日本大震災を引き起こして以来である。また、10月20日には熊本県にある活火山の阿蘇山が噴火し、中岳火口から火砕流が1600メートル流下した。

今年は東日本大震災(日付をとり「3・11」と呼ぶ)の発生から10年目になるが、日本列島では地震と火山の噴火が頻発している。評者が専門とする地球科学的には、その原因は平安時代以来1000年ぶりの「大地変動の時代」が始まったためと考えている。

前回、「3・11」に相当する地震が起きたのは西暦869年である。東北沖を震源とするマグニチュード(以下ではMと略記)9クラスの貞観(じょうがん)地震が発生し、強い揺れと大津波をもたらした。それを機に現在と同様の大地変動の時代に入り、全国の至るところで地震が起きた記録が残っている(宇佐美龍夫ほか『日本被害地震総覧599-2012』東京大学出版会)。

そして9年後の878年には関東南部でM7.4の直下型地震が起き、さらに9年後の887年に仁和(にんな)地震というM9クラスの巨大地震が起きた。これは現在懸念されている「南海トラフ巨大地震」と同型で、西日本海域の南海トラフ西側と東側の震源域が活動したものである。

地球科学には「過去は未来を解くカギ」というキーフレーズがあり、過去に起きた地震と噴火から将来を予測する。そして本書は東京大学の地震学者と歴史学者がチームを組み、過去の災害を読み解き未来へ活用する意欲的な本である。東大駒場キャンパスで行われた講義の書籍化でもあり、分かりやすい図を数多く載せるなど初学者への配慮が行き届いている。

副題に「過去がしめす未来」とあるとおり、歴史上の地震と噴火の知識は、日本で安全に暮らすためには極めて重要な情報となる。では、歴史上の災害を知ることは、どう役に立つのだろうか。ここに評者の専門である地球科学特有の事情があるので解説しておこう。

たとえば、物理や化学では自然現象を支配している原理が分かると、方程式を立てて将来起きる現象に対して予測ができる。ところが、地球上の現象には偶然起きるものが多く、物理や化学の原理通りに起きるわけではない。こうした場合、過去に起きた事実を積み重ねて精査することで、初めて今後を予測できる。

つまり、地球のように内部の物質が極めて複雑で多様な履歴を経てきたものには「複雑系」の性質があり、「物理モデル」を立てた予測と制御がきわめて難しい。こうした場合に過去の事例が、未来予測にとってきわめて重要な情報となる(拙著『地震はなぜ起きる?』岩波ジュニアスタートブックス)。

実は、評者が火山の研究を開始した45年ほど前から、地震学者と火山学者は残された古文書を読み解きながら、より確からしい将来像を編みだしてきた。本書もこうした考えに基づき、文理融合のアプローチを行った見事な成果なのである。

さて、日本列島は2030年代に「南海トラフ巨大地震」という激甚災害を控えており、全人口の半分に当たる6000万人が被災する可能性が高い。この巨大地震は日本最大の活火山である富士山のマグマにも影響を与え、大噴火を誘導する恐れがある(拙著『富士山噴火 その時あなたはどうする?』祥伝社)。まさに本書に書かれた江戸時代に起きた「宝永の地震と富士山噴火」(69ページ)の再来だ。

もう一つ予想されている近未来の激甚災害が「首都直下地震」である。国の中央防災会議は首都圏でM7.3の直下型地震が起こった場合の被害を具体的に予測し、冬の夕方6時に最大震度7の揺れが襲ってきた場合の死者23000人、全壊・焼失建物61万棟、被害総額95兆円と試算した。

これは冒頭で述べた10月7日に発生した千葉県北西部を震源とする地震(M5.9)の約30個分相当の巨大地震である。そして首都直下地震では強震動による建物倒潰のほか、火災の延焼による犠牲者の激増が最も懸念されている。

国の想定によれば犠牲者は16000人で、死者総数の7割に当たる。たとえば、2年後に100周年となる関東大震災(1923年)では、犠牲者10万人ほどのうち9割が火災で死亡した。本書でも第4章「首都圏の地震」の中で大正関東地震としてページが割かれている(165ページ)。

再び「過去は未来を解く鍵」の観点から現代に当てはめると、古い木造住宅が密集し区画整理の進んでいない「木造住宅密集地域」では地震直後の火災が起きやすい)。具体的には、地盤が軟弱な首都圏東部と、環状6号線―8号線の間では特に警戒が必要である(拙著『首都直下地震と南海トラフ』MdN新書。

ちなみに、首都直下地震が起きる時期については日時のレベルでは予知できず、地震学会もこうした短期的な予知は不可能であると断言した。よって、いつ発生しても不思議ではない巨大災害と捉えて、直ちに防災対策に取りかかる必要がある。

日本列島はエネルギーを溜めこんだ状態が続いており、これから首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山(活火山)噴火と、3つの激甚災害を控えている。こうした中で本書の知識を活用して未来に起きる災害に賢く対処していただきたいと、「科学の伝道師」を標榜する評者は強く願っている。自然災害に関心を持つ全てのHONZ読者に、東京大学出版会創立70周年記念出版となる本書を薦めたい。

地震はなぜ起きる? (岩波ジュニアスタートブックス)
作者:鎌田 浩毅
出版社:岩波書店
発売日:2021-03-27
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富士山噴火 その時あなたはどうする?
作者:
出版社:扶桑社
発売日:2021-08-18
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首都直下地震と南海トラフ (MdN新書)
作者:鎌田 浩毅
出版社:エムディエヌコーポレーション
発売日:2021-02-04
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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