訃報には本来大きいも小さいもないのですが、「亡くなった」と知らされることによって「社会が揺れる」ような感じをおぼえることがあります。最近では坂本龍一さんの訃報がそんな感じでした。
坂本さんにはすでに『音楽は自由にする』という自伝があります。09年に出版されたこの本(新潮文庫刊)を継ぐ形で最晩年までの思いを綴った決定的自伝が発売されます。
最期まで新たな曲を作りたいと願った世界的な音楽家の最後の言葉。6月の注目作となりそうです。
来月発売予定の新刊から気になったものをいくつかピックアップして紹介していきます。
著者はスティーヴン・ホーキングと『ホーキング、宇宙のすべてを語る』などを共著として手がけたレナード・ムロディナウ。本人も多くの著作を執筆しています。かつては「的確な判断の邪魔をするもの」とされてきた感情は、生存のために進化した最強の能力であることが最新科学でわかってきています。感情について知っておけば、自分のパフォーマンスはもっと良くなるかも知れません。睡眠不足がやる気の敵だったり、悲しい気持ちの時の方が現実的な判断を下せたり。自分の行動を裏付ける知見が得られそう。
老化がなぜ起こるのか、という大きな謎については多くの研究者が取り組んでおり、近年その解決方法が見えてきたというのが大きな話題です。そして老化についての本も急激に増えてきました。
この本では、そもそも「老いる」ということがヒト特有なものだと教えてくれます。私たちにとっては何のメリットもなく見える老化が生物学視点から見るととても大事なモノなのだとか。『生物はなぜ死ぬのか』がベストセラーになった小林武彦さんの最新著作が登場します。
昨年『給料はあなたの価値なのか』という本が出版され話題になりました。『ブルシット・ジョブ』以降、給料と仕事の価値にまつわる本が増えている気がします。今回取りあげたこちらではちょっと毛色が違うかもしれません。納得できる給料が社会にも個人にも必要ながら、具体的にはどうしたらいいのかというのはなかなか難しい問題です。日本が大きく雇用の常識を変える中、世界標準の給与決定の仕組みを解説した1冊。
原著は『The Social Instinct』として、21年に刊行されました。まさに世界的なコロナ禍真っただ中に出版され、様々なメディアで絶賛されてきた作品です。「協力」という言葉には良いイメージしかなかったのですが、生物学的に見るとそうでもないようです。詐欺や汚職、陰謀論にすら「協力」が背景にあるのだとか。
とはいえ、こういった知見がこれからの良い社会作りに必須なのも間違いがないでしょう。
先月のこのコーナーで、アストラゼネカ社のワクチン開発の裏側を描いた『ヴァクサーズ』を紹介しました。
6月にはいよいよ、モデルナが登場。これでコロナワクチンを巡る主要各社の取組を描いた本が出揃ったことになります。「変化に対応する」という事に対し、各企業がどう動き、どう判断し、どう成功させたのか。読み比べてみるのも面白そうです。
2月の発売以降、『安倍晋三回顧録』の勢いが続いています。その回顧録にも書かれていない事がある、と「実録」を記すのは元NHK記者の岩田明子さん。20年にわたる取材の中で記録されてきた取材メモから、どこにも書かれていない“安倍晋三”という実像を浮かび上がらせます。これも読み比べ必須の1冊でしょう。
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今年はまた暑い夏がやってきそうです。気候変動対策は待ったなし、という状態ではありますが、そのあたりのテーマの本は少し落ち着き気味でしょうか。6月はポピュラーサイエンス関係の本が元気な月になりそうです。お楽しみに。