トランプ大統領の登場により、多くのメディアは、グローバリゼーションや地球温暖化対策は曲がり角に差し掛かったと報じた。ブレクジットについてもEUの将来を悲観的に見る報道が多かった。
しかしフランスでは、グローバリゼーションを真正面から受け止めEUの強化を愚直なまでに訴えたマクロン大統領が誕生した。「革命」はマクロンが書き下した本である。大統領選に出馬するために書いた本と聞けば、誰しも構えて読むのが普通だろう。それにも関らず、本書は実に魅力的だ。マクロンは、人間としてはトランプより遥かに興味深いのである。
本書は3部に分かれている。第一部は「思想」。まず、生い立ちが語られる。勤勉であることを教えてくれた祖母、そして高校生のとき恋に落ちたブリジットとの出会い。次に、なぜ「前進!」を立ち上げ大統領選に出馬したのかが説明される。
そして、「フランス語を話す者は、フランスの歴史を託された者となり、フランス人となる」という明確なフランス人の定義に続いて、「フランスは一つのプロジェクトであり人々を解放する共和制である」という骨太の国家観が述べられる。その後は、グローバル化などの大きな変化に飲み込まれ停滞しているフランスの現状分析。マクロンの思想がストンと腹に落ちるように構成されている。
第二部「戦略」では、抽象的ではあるが、フランスがなすべきことが明瞭に語られる。人的資本への投資が第一。「環境問題こそフランスがトップに立たねばならない」とマクロンは言い切る。「自分の仕事で生計をたてられること」が基本で「持たざる人々に多くのことをする、最も弱い者を守る」。
政府が各地方にまったく同じことを約束できる時代が過ぎ去った中での大都市の発展と地方創生をどう考えるか。すべてが整合的で、優先順位付けがなされている。わが国にもそのまま適用できそうなビジョンではないか。
第三部は「未来」。マクロンは冒頭に歴史を持ってくる。歴史や知恵を学ばないかぎり、「何者にもなれない」。マクロンが挙げた歴史や文化の立役者のリストが興味深い。クロヴィス、アンリ4世、ナポレオン、ダントン、ガンベッタ、ド・ゴール、ジャンヌ・ダルク、共和暦2年の兵士たち、セネガル歩兵、レジスタンスの活動家たち、なるほど、と唸らされる。
続いて安全保障や外交問題。EUに対する姿勢は「ユーロ圏をいまだに完成させていないのは間違いだったと認識しなければならない」と揺るぎがない。では、いかにして民主的な革命を成し遂げるのか。それは、既成の政治家ではない普通の人々のアンガージュマン、政治参加によってである。「新しい人を国会に投入」して右でも左でもなく前へ進むこと。
マクロンは、ごく当たり前のことを言っているに過ぎないのだが、低い投票率に支えられて世襲議員が大多数を占めるわが国の現状から見れば何と新鮮に響くことだろう。現に、大統領選挙後に行われた国民議会選挙では、マクロンの与党「共和国前進」が大勝したが、女性が当選者のほぼ半数を占めるなど「新しい人」が大量に国会に入ったのだ。
もっとも、政治家は、理念や思想ではなく結果で評価されるべきなので、この先マクロンがどんな結果を残すのか、とても楽しみだ。わが国では誰しもアメリカのことは学ぼうとするが、このような個性的な政治家を生み出したヨーロッパの懐の深さにも、学ぶことが多いのではないか。リーダーは、何よりも、確固とした国家観を持たねばならない。リーダーを目指す全ての人に勧めたい良書だ。