『アナログの逆襲 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる』 編集部解説

インターシフト2018年12月10日 印刷向け表示
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アナログの逆襲: 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる
作者:デイビッド・サックス 翻訳:加藤万里子
出版社:インターシフト
発売日:2018-12-10
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デジタルの先にあるアナログへ

いま、さまざまな分野でアナログの魅力が再注目され、ヒットしている。たとえば、音楽でもCDの売上は落ち込む一方なのに、アナログ・レコードは世界的に人気が高まっており、売上も大きく伸びている。

こうした現象が興味深いのは、アナログ人気がけっして過去を振り返るノスタルジーではないことだ。今日のアナログ・ブームを牽引しているのは、幼い頃からデジタルに慣れ親しんでいる若い世代である。また、デジタルの最先端にあるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの企業も、アナログ的発想を重視しはじめている。

そう、いま台頭している現象は、「デジタルの先にあるアナログ」であり、「ポストデジタル経済」へ向かう大きな潮流なのだ。

本書は、第1部「アナログな<モノ>の逆襲」で、レコード、紙、フィルム、ボードゲームの人気を通して、こうしたアナログ・ブームの実態と背景を探る。さらに、第2部「アナログな<発想>の逆襲」では、印刷メディア、リアル店舗、仕事、教育、デジタル先端企業などの取材により、アナログの隠れた力が明かされる。

五感を通して世界を学ぶ

アナログならではの魅力を本書は多面的に考察するが、とくに強調されるのは次のポイントだ。

まず、「フィジカル・身体的」であること。これはモノとしての存在感だけではなく、身体を介した認知・コミュニケーションが含まれる。たとえば、ボードゲーム(テーブルゲーム)の面白さは、デジタルのゲームでは味わえない人間的なやりとりが得られることにもある。

対戦相手の表情、姿勢、息づかい、飲み物をすする様子、テーブルの下の貧乏ゆすりまで、身体が出す無数のシグナルから、複雑な感情を読み取ってゲームを進める。交渉、はったり、嘘、ごまかしも戦術のうち。そこには高度な感情的知能や直感が欠かせない。チェスや囲碁が得意なAIでも及ばない領域なのだ。

私たち人間は、幼児期に「触れ、嗅ぎ、聴き、見て、味わう……」といった五感を通して世界を学んでいく。こうした行為が、社会的・感情的・認知的な発達の基盤となる。また、身体を使う遊びによって、他者との関わりや社会のルールも身につけていく。

まさにアナログが人間としての原点をなすわけだ。スマホやネットによるコミュニケーションが発達したからこそ、それだけでは満たされないリアルで社会的な体験・交流への欲求も高まってきていると言える。

21世紀のスキルを養うために

アナログはその制約を強みに変えて、「創造性・即興性」を触発する。グーグルではデザインを、紙とインクを使った手描きのスケッチから始めるようにしている。最初にデザインソフトを使うと細かいことに気を取られ、アイデアを自由に羽ばたかせることができないからだ。

モレスキンのノートが創造性を重視する人々に愛されるのも、同様の理由だろう。手描きのメモは、デジタル機器に書くよりも、集中力を高め、情報を保持し、精神衛生にもよいことが判明している。

このことは、音楽業界のアナログ的な録音にも言える。デジタル的な録音技術が進むと、幾らでもやり直しができ、修正可能だ。その代わり、音楽本来の持つ生々しさ、エモーショナルな即興性が削ぎ落とされてしまう。一流のミュージシャンがアナログ録音に改めて注目しているのは、彼らの創造性・エネルギーを盛り上げる熱い芯がそこにあるからだ。

リアルな買い物にも、こうした刺激が潜んでいる。ネットショップの「おすすめ」は関連性のある商品が主体だが、リアルな買い物には予想もつかない出会いがあるからだ。ぶらぶらと店内を歩いていて、思いがけず素敵な本や服などに巡り会う喜び。こうした「セレンディピティ(偶然の素晴らしい発見)」体験も、実店舗ならではだろう。

教育や職場でも、アナログが重視されつつある。今日の教育に欠かせない「21世紀のスキルーー創造性、コラボレーション、批判的思考(クリティカル・シンキング)、コミュニケーション、共感」といった能力は、デジタルよりもアナログ的なツールや方法のほうが遙かに養える。

職場においても、従業員が顔を合わせて会話をしたり、協働を促すような場づくりが進められている。デジタル企業がアナログ的な遊び心あふれる環境や、素材を生かした空間デザインなどにこだわっているのも、そのほうが「生産性」が高まるからにほかならない。

エンゲージメントや雇用機会でも

ネット通販の猛威に曝されている小売りにおいても、アナログはけっして絶滅した恐竜のようではなかった。ネット通販が占めるシェアは拡大傾向にあるとはいえ、米国ですら10パーセントほどに過ぎない。しかも、多くのオンライン小売り事業はいまだに赤字経営なのだ。

一方で実店舗は、顧客獲得、買い物経験、販売促進、リピート率・顧客単価などにおいて、ネットショップよりも有利だ。また、書店の手売り(ハンドセリング:店員が顧客の読みたい本を対話しながら選ぶ)のように、たんなる小売店と消費者という関係を超えた「親密な交流」を促せるのも、実店舗の強みだろう。

「ブランド価値」を高める上でも、実店舗が優れていることは、アップルの成功を見てもうなずける。メディアにおいても紙媒体は部数が減っても、読者の「エンゲージメント(愛着のある絆)」が高く、収益面で健闘している。インディペンデント系の雑誌も続々発刊され、毎号10万部以上を売り上げるものもある。

アナログな業態は、「雇用」面でも欠かせない。デジタル企業は、少人数で動かせるため、ごく一部のエリートしか従事できない。また、分野のトップ企業だけが生き残れる寡占支配の世界だ。こうしてデジタル経済は、格差や不平等を広げていく。

一方で、アナログを残す製造・サービス業などの企業群は、互いに競争し合いながら、多くの雇用機会をもたらしている。「地域コミュニティの活性化」につながるポテンシャルもあり、そこにポストデジタル経済の果たすべき大きな役割がある。

デジタルはめまぐるしく進展し、更新されるため、「レガシー(後世へ残る業績・伝統)」を育みにくい。対照的に、リアルなモノや空間には、時間の蓄積や希少性があり、プレミアムな価値をもたらしうる。中古になっても、かえって高く売れるレコードのように。

そして、アナログには味のある「物語」が寄り添うーー穏やかな声で<人間らしさ>とは何かを問いかけるような物語が。

テクノロジーのイノベーション・プロセスは、よいものからよりよいもの、最高のものへと徐々に進化する過程ではない。私たちが何者で、どのように生きるかを知るための試行錯誤の道のりなのだ

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