『BL古典セレクション2古事記』八百一万(やおいよろず)のボーイズラブ!

版元の編集者の皆様2019年02月10日 印刷向け表示
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BL古典セレクション2 古事記
作者:海猫沢めろん
出版社:左右社
発売日:2019-01-03
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社長の一声で生まれた「BL古典」シリーズ

「ならぬ……兄弟でこのようなこと―高天原から見ている者がいるかも知れぬ」
そう言って身を引きはがそうとすると、弟は接吻で兄の唇を塞いで、
「兄上。我々は神。神に許されぬことはございませぬ。それにこれは国生みに必要な儀式でございます」――『BL古典セレクション②古事記』より

「BL古典セレクションの編集者です」と言うと、「腐女子なんですか?」と訊かれることが多いのですが、この企画が立ち上がった2018年5月時点では、BL“も”描く作家さんの作品をいくつか読んだことがある程度でした。

ではなぜこのようなシリーズが生まれたのか?
スタート地点は「古典のおもしろい現代語訳が読みたい」×「雪舟えまさんの本を出したい」という個人的願望でした。ただ、雪舟さんは近年「緑と楯」という男性カップルの小説シリーズのみ執筆すると宣言されているので、普通の現代語訳だと受けていただけないかもしれない……と社長に相談。すると、

「じゃあBLにすればいいじゃん」

とあっさり言うではありませんか。奇しくも世は『おっさんずラブ』がブームになりはじめた頃……「BL古典」という言葉のキャッチーさもあいまって、企画はあれよあれよという間に進んでいきました。

そして10月、念願叶ってシリーズ第一弾・雪舟えま訳『竹取物語・伊勢物語』を刊行。HONZでもレビュアーの仲野徹先生から素敵な書評を賜りました。

男神乱舞!既存のジェンダー観を打ち破る

今回ご紹介するのはシリーズ第二弾、海猫沢めろん訳『古事記』。めろんさんのテンポ良くユーモラスな文体は、トンデモ設定の多い『古事記』と相性がいいはず……とお願いしたところ、これが予想以上のハマり具合でした。

ヘタレ攻めの伊邪那岐(イザナギ)、男の娘にもなる天照(アマテラス)、ホスト風味の月読(ツクヨミ)、ザ・中二病の須佐之男(スサノオ)など、個性豊かな男神たちが暴れまくります。訳文の肉付けはある程度自由にしていただいていますが、一方で古典文学のおもしろさに触れるきっかけにもなるよう、本シリーズでは「話の筋を変えない」ことを大切にしています。そのため、二次創作的な楽しみ方だけでなく、BL化によって原作からどのように変化したのかを考えるのもおすすめの読み方です。

たとえば伊邪那岐命と伊邪那美命の、かの有名な国生みのシーン。原典では女神・伊邪那美が男神・伊邪那岐を誘ってもうまく国が生まれず、「女から声をかけたのがいけない」として、反対に伊邪那岐から伊邪那美に声をかけると、国づくりが成功するというストーリーです。神話なのでしょうがないのですが、現代女性の視点で考えると「女から誘ったからダメ」という描写にむむっと思ってしまうのもまた事実。それがめろんさんのBL訳では、こうなります。

どうも国作りがうまくいかぬので、伊邪那美が困り果てて天の神様に相談してみると、鹿の肩の骨を焼く占いで、「兄の覇気が足りぬ」というお告げが出ました。
――伊邪那岐、気持ちがよくわからない……。
――伊邪那岐、やる気が見られない……。
――伊邪那岐、マグロすぎ……。
どこからともなくあたりの壁からそんなささやき声が聞こえてきました。
伊邪那美はなんとなく事情を察して、
「私の技術でなんとかいたします」
そう言い、次のまぐわいでは兄の伊邪那岐を焦らして攻めまくりました。
そうすると、兄も積極的になり、これまでのことが嘘のように続々と国が生まれていき
ました。
――「伊邪那岐命と伊邪那美命の章」より

この原稿をいただいたとき、なるほど、受け攻めの問題だったのか!と目から鱗が落ちるような思いでした。このように性別による役割分担から解き放たれ、それぞれの個性がぶつかり合う話として読めるのもBLのおもしろさ。腐女子腐男子の方はもちろん、既存のジェンダー観に疑問を持っている方にもお楽しみいただける一冊となっております。

初めてのシリーズ刊行記念イベント決定!

さて、この『BL古典セレクション②古事記』の刊行を記念して、2月25日(月)に本屋B&Bさんで刊行記念イベントを開催いたします。

「今夜はめろんと男神LOVE feat.ひらりさ〜日本一尊いボーイズラブの話〜」
出演は訳者の海猫沢めろんさんと、小5からこのかた腐女子でBL関連本の編集にも携わっている、ライターのひらりささん。

過激すぎて社長NGの出たテキスト公開など、裏話もたくさん飛び出す予定ですので、ぜひ遊びにきてくださいね。本書未読の方も大歓迎です!

ちなみに、企画当初はBLにあまり詳しくなかった私ですが、資料のBL本を読み漁ったり、書店員さんや腐女子の友人におすすめを教えてもらううちに、いつのまにかBLは私の生活に欠かせないものになってしまいました。

とはいえまだまだ旅ははじまったばかり。仕事でBLに触れられる喜びを噛み締めつつ、801段あるという腐女子の大階段、1段ずつ着実に登らせていただきたいと思います。

左右社編集部 筒井菜央
1986年生まれ、兵庫県宝塚市出身。イベント企画、雑誌編集部でのライティングを経て、2017年に左右社入社。「BL古典セレクション」シリーズ続刊の王谷晶訳『怪談』のほか、俳句入門書や児童書などさまざまなジャンルの本を準備中。 
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