『宇宙の果てまで離れていても、つながっている 量子の非局所性から「空間のない最新宇宙像」へ』 編集部解説

インターシフト2019年03月05日 印刷向け表示
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宇宙の果てまで離れていても、つながっている:  量子の非局所性から「空間のない最新宇宙像」へ
作者:ジョージ・マッサー 翻訳:吉田三知世
出版社:インターシフト
発売日:2019-03-05
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この世界から<空間>が消えたなら?

想像してみよう。「もし、この世界から<空間>が消えてしまったら?」・・・。空間がなければ、距離もない。こちらもあちらもない世界ーーあらゆるものは宇宙の果てまで離れていても、つながっているだろう。当然、あなたとわたしもなく、モノ固有の境界も性質もなくなる。光速の壁は超えられて、時間すら反転可能かも知れない。ごった煮の超高エネルギーの闇鍋のような世界だ。

こんな恐るべき「無-空」が、じつは私たちのすぐ身近に、いたるところにあるとしたら? 最新の宇宙論は、こうした認識のほうがリアルであると示唆する。いったいどういうことだろう。

物質・エネルギーの最小レベルは、「量子」と呼ばれる。私たちの身体から宇宙の星々まで、あらゆるものは突き詰めれば量子から成っている。この量子、不思議な行動をとることで知られているが、なかでも極め付けは「量子テレポテーション」だ。

ペアをなす2つの粒子を「量子もつれ」という影響をおよぼし合う状態に置き、コインに見立てて裏・表どちらが出るかを試してみると・・・。普通のコインならば、平均2回に1回の割合で互いに同じ面になるわけだが、もつれた量子コインはなんと常に同じ面を見せるのだ。表-表、裏-裏、裏-裏、表-表・・・というように。この現象は、粒子がどれほど離れていても起こるーーまるで空間を超えて、テレパシーでコミュニケーションしているみたいに。

こうしたミステリアスな量子の性質は「非局所性(ノンローカリティ)」と呼ばれ、長らくなぜ起こるのか謎だった。アインシュタインは、「不気味な遠隔作用」と名づけ、この謎の究明にこだわり続けた。以後、その解明に向けて「物理学の100年論争」と呼ばれるほどの論争・対立が続いてきたが、いまだに決着はついていない。

SFもビックリの対抗理論

「非局所性」の、いちばんわかりやすい説明は、物質の根源には「空間なんてない」ということだ。だが、そう口にしたとたん、喧々諤々の論争が巻き起こる。「空間」は物理学の最も基本的な尺度のひとつであり、それが揺らぐようなことになれば、物理学の屋台骨も揺らぐことになるからだ。

さまざまな実験では、量子の非局所的な振る舞いは事実であることがわかってきている。たとえば、東京大学の古澤明らも極めて厳密な実験で、検証している。こうした検証が重要なのは、量子暗号・量子コンピューターなど近未来テクノロジーの鍵になるのが、量子もつれ効果だからである。

さて、これほどの検証を前にしても、非局所性を認めることに反発する者たちは、あれやこれやと代替案を編み出し、対抗していく。著名な科学者たちも支持するこうした案は、もはやSFもビックリ!というほど奇妙なものだ。たとえば・・・・

・超決定論
「そもそも2枚の量子コインが同じ面に落ちるように、あらかじめ選択されていた」、とする。人間に置き換えれば、あなたが選択することは、宇宙によって以前から決められていた・・・というのだ。一見、トンデモ説のように思えるが、「宇宙には知られざる保存則がありうる」という科学的な主張なのである。

・逆向き因果
粒子には未来が見える、つまり「この先起こることをすでに記憶した状態」で世界に登場する・・・という。粒子には予知能力がある、というわけだ。こちらもファインマン、ホイーラーという当代一流の物理学者が支持していた。

・平行宇宙、多世界
SFでもおなじみ。無数の可能性の宇宙のなかで、たまたま2枚のコインが一致するという世界に私たちは居合わせただけ、なのだ。

・実在論の否定
局所性そのものではなく、粒子の実在性(粒子は測定される前から固有の性質がある)こそが問題だとする。本書は、この説をいちばん買っている。

量子宇宙論の最先端へ!

だが、量子宇宙論の進展とともに、非局所性こそ本質だとする見解が勢いを増している。本書は、最新の宇宙論を紹介しながら、こうした見解を裏付けていく(数式はいっさい出てこないので、ご安心を)。

登場する科学者たちは、ファン・マルダセナ(ホログラフィー原理、AdS╱CFT対応)、スティーブ・ギディングス(量子重力理論)、ニマ・アルカニ=ハメド(アンプリチューヘドロン)、レオナルド・サスキンド(BFSS行列模型)、リチャード・ヒーリー(ゲージ不変性の非局所性)、ドン・マロルフ(宇宙の境界論)、デイヴィッド・アルバート(相互作用距離)、モシェ・ロザリやラマン・サンドラム(弦理論)、フォティーニ・マルコープロ(量子グラフィティ)、エドワード・ウィッテン(弦理論とツイスター理論の融合)、フェイ・ダウカー(因果集合説)・・・などなど、まさにキラ星のごとく輝ける新たなスターたちだ。わが国からは、川合光、高柳匡などの理論が紹介されている。

「無の泡」「にじんだ空間」「超量子もつれ」「無媒介の距離」など、なにやら禅の公案めいた概念もポンポン飛び出す。それにしても、「世界の根源に空間はない」のならば、いったい空間はどのように生まれてくるのだろう? 本書では興味深い仮説が次々と披露される。

たとえば、量子もつれこそが、空間を生み出すという説(本書には登場しないが、ホログラフィー原理で知られる大栗博司教授も、同様の研究成果を発表している。また、「因果力学的単体分割」は、私たちが暮らしている空間も、非空間的なネットワークの重ね合わせとみる。そして、集合知のように、あるネットワークの非空間性が、別のネットワークの非空間性によって打ち消され、「空間」が残るというのだ。

「量子グラフィティ・モデル」では、空間と非空間とは、おなじ粒子のネットワークの異なる相なのだという。ひとつの相は、すべての粒子がほかの粒子と結びついた高エネルギー・ネットワーク(非空間的)。もうひとつの相は、粒子どうしが限られた結びつきを保つ低エネルギー・ネットワークの規則的な格子(空間的)だ。

こうして、非空間から空間が生まれるのなら、そもそも宇宙というスペースはどのように始まったのだろう? 宇宙の迷路のようなブラックホールの真の姿とは? 時間も、非-時間から生まれるのか? ・・・・空間の崩壊によって、従来の宇宙観も大きく刷新されようとしている。

著者は、科学ジャーナリストだけあって、それぞれの理論の違いや関わりを、当の科学者たちに取材することによって、わかりやすく教えてくれる。しかも、科学者それぞれの人間くさい風貌ーー熱情的、冒険好き、頑固、風変わり、超常現象への関心・・・ーーを付け加えることも忘れない。そこには、宇宙の究極の謎を探求する者たちへの深い敬愛と親しみがあふれている。

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