唐突ですが、少し芸術史の話をします。
かんたんなアートの歴史です。本書の要約でもありますが、私個人の見解を入れさらに圧縮しています。アートって苦手と思う人ほど、ためしに読んでみてください。
タイトルにある「13歳」というキーワードですが、これは学校の好きな教科アンケート※で美術の時間がワースト1位になるタイミングだそうです。
ポイントは3人の芸術家になります。歴史上、人類はラスコーに壁画を描いた記録がありますが、文明が発達してからは長く人間は宗教画を描いてきました。識字率が低い時代、たとえばキリスト教の荘厳な教えを広めるため視覚的な効果で説明補助としての役割を担ってきました。
20世紀になり、画家にとって衝撃的な発明がありました。写真の登場です。カメラが風景や人物を一瞬で記録するため、似顔絵を生業としてきた人達は食い扶持を無くすのではと不安になりました。
そんな中に現れたのはアンリ・マティスです。 これがポイントの1つ目になります。彼は作品《緑のすじのあるマティス夫人の肖像》 で、顔の鼻に緑の線を入れたり、女性モデルなのに男性的に描いたり、よく見ると青、緑、赤色しか使わなかったりしました。 発表当初はヘタクソ!と酷評されています。ただ、写真に出来ないことをしたマティスの影響力は大きく、モネなどその後の印象派達はそれに続きました。このため彼は「20世紀のアートを切り開いたアーティスト」とも呼ばれています。
そしてポイント2つ目です。カンディンスキーは、そこから次の突破口を開きました。それは具象的モチーフを描かないことです。カンディンスキーは、モネの《積みわら》を初めて観たとき、何が描いているのかわからない、でも魅力的と衝撃を覚えました。カンディンスキーは、よくわからない点こそ魅力なのだと理解しました。ピカソでさえも女・少年・観葉植物・猫と対象物は具象を描いています。彼が特別だったのは、幼少の頃から親しんだクラシック音楽で、音を色に置き換え、リズムを形で表現したことです。代表的作品は《コンポジションⅦ》になります。おそらく実際に見た人は、きっとキャプションをすぐ見たくなるでしょう。まず意味がわかりません。それでも子供に見せるとクジラがいるだの、虫がいるだの、勝手気ままに想像できます。彼の功績は大きく、いま美術館で飾られる抽象画は、カンディンスキーがいなければ見られなかったかもしれません。
最後のポイントはマルセル・デュシャンです。男性用の便器にサインしただけの《泉》は、今では現代アート界では超定番キーワードとなりました。ハンドメイドでなくとも、大量生産の既製品をアートにした点もそうですが、何より「美」とは間逆のイメージを美術史に乗せたという結果が評価されています。もちろん発表当初は、酷評につぐ酷評でした。ただ、「アートは美しいもの」という前提を取っ払ってしまいました。
ここまでをまとめると、
1.マティス 写真からの脱却 ⇒ 上手に描かなくてよい
2.カンディンスキー 具象からの脱却 ⇒ モチーフを描かなくてよい
3.デュシャン 視覚芸術からの脱却 ⇒ 綺麗でなくてよい
宗教画の時代に比べて、かなり自由になりました。あ、すみません最後にアンディ・ウォーホルだけ紹介させてください。彼は美術の壁そのものを取り払いました。作品《ブリロ・ボックス》は、Brilloという商品パッケージを木箱にプリントし、それを積んだだけで展示しました。ちなみにBrilloは食器用洗剤です。ここでも猛烈な批判がありました。ただ興味深いのは、ウォーホルは題材もオリジナルでなければ、制作方法すらシルクスクリーン(コピー)なので自分でつくっていません。モチーフの商品もスーパーでどこにでも売っています。それでも美術館に展示しました。結果としてウォーホル以降は、絵画や彫刻など芸術と思われてきたものが美術館からなくりました。その壁がなくなったおかげで、現在はMoMAにもビデオ・ゲーム《パックマン》(※現バンダイナムコエンターテインメント制作)も収蔵するようになります。
これで以上です。なぜ美術史をかいつまんで紹介したかというと、今は第二次世界大戦後でも、最も先が読めない未曾有の時代が到来しています。
アートの歴史を引き合いに出したのは、アーティストはどんな状況下でも「自分だけのものの見方」で動いている事例として伝えたかったからです。
じっと動かない1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」を持たない人が、激動する複雑な現実世界のなか、果たして自らの意思で行動できるのでしょうか。
本書は美術教師が著したものです。そのため、誰にでもわかりやすく教える文体となっています。数ある芸術書の中でも理解しやすい一冊でした。この不透明で混沌とした状況下、自分なりに探求の根を生やすのに最適な本ではないでしょうか。
※学研教育総合研究所のデータをもとに著者作成
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