「中医学」とは中国伝統医学のこと。著者は日本人で初めて中医師の医学博士号(中医内科学)を取り、外国人として初めての中医内科主治医師資格を取得した。中国へ渡って25年、現在も上海で臨床に当たっている。
日本人にとって漢方薬や鍼灸治療は身近な存在だ。健康志向から薬膳に興味を持つ人が増えつつある。
中医学の治療思想の根本は「未病を治す」ことだと著者は語る。これには発病する前に予防する措置を取る「未病先防」、罹患した場合でも先手を打ち、悪化に対する予防線を張る「既病防変」があり、医師の指導だけでなく患者自身が取り組む「セルフ養生」が必要になる。
本書ではこの「セルフ養生」のやり方を、伝統的に受け継がれてきた方法から、AIを使った診断法まで紹介していく。そのほとんどが生活に密着しており、日本でも応用できそうだ。
まずは季節に関わる「未病先防」だ。日本と同じく四季の変化がある中国では、自然の変化と人の体調とが密接に関係していると考えられている。それぞれ季節には特徴的な変化があり、春は風、夏は火、秋は乾燥、冬は寒さに代表される。この変化に人の五臓は影響を受けるため、それに応じた養生が必要だ。体温調節、睡眠、生活慣習、そして食生活などの注意点が細かく記されている。
「既病防変」では体調不良に効くツボや膏薬の種類、調理方法などが理屈とともに紹介されていて、すぐに活用できそうだ。アルコールの飲みすぎに蒸した梨が効く、とは意外であった。
多くの種類があるお茶の効能や香辛料の使い方、お酒の飲み方など、病気かな、と思ったときに使えそうなアイデアとたくさんの写真が理解の助けになっている。
現在ではビッグデータを活用して、中医学によって体質を分析する研究も行われているという。現代医療は多様化している。中医学はその一つの方法論だ。本書はその治療の選択の手掛かりになる一冊である。(週刊新潮7/30号)
・・・・・・・・・・・・・・・・
HONZメンバーの麻木久仁子は中国政府公認学術団体「中国薬膳研究会」から国際薬膳師の資格を取得し、薬膳講座の講師も務めている。 『中医養生のすすめ』と一緒に読むと、うんうん、とうなずくことが多い。健康を維持するために食べることは大事。