『Liquid 液体 この素晴らしく、不思議で、危ないもの』 編集部解説

インターシフト2021年04月08日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Liquid 液体 : この素晴らしく、不思議で、危ないもの
作者:マーク・ミーオドヴニク
出版社:インターシフト (合同出版)
発売日:2021-04-08
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

すぐそこにある日常の中にこそ驚異がひそんでいる。材料科学という魔法の杖で著者が触れると、なじみ深い液体も、なんと魅惑的で不思議な姿を現すことだろう。

固体と気体のあいだにある「液体」という状態は、なるほど謎めいている。たとえば、スマホやテレビのディスプレイなどに使われる液晶。その名のように、液体と結晶(固体)の性質を併せ持つ。この奇妙さと電圧をかければ分子の群れの向きを変えられるという性質こそが、液晶の技術的成功の鍵なのだ。

奇妙と言えば、PFC(パーフルオロカーボン)液体は、その中にマウスを浸からせても魚のように呼吸できるというまさに魔法のような特性で、人工血液として脚光を浴びている。

固体や気体へと変身する液体材料は、人類の大いなる進歩を支えてきた。液体から固体へと変わる粘つく接着剤がなければ、私たちは数々の道具もつくりだせなかった。現代の軽量化した飛行機には炭素繊維複合材料が使われているが、それを可能にしたのも先進の接着テクノロジーにほかならない。輝かしい名作絵画を時を超えてあらしめているのも、色付き接着剤たる絵の具のおかげだ。

流動的で圧縮しにくい液体は制御が難しい。ときにそれは洪水や津波となって襲い来る。ことは自然界だけではない。筆記具であるペンのインクも、その流れをいかに制御するかなど多くの難題を抱えていた。この問題を解消したのが、すらすら流れるように文字を書けるボールペンだ。液体インクの非ニュートン流動という性質と、回転する小さなボールとを組み合わせた天才的な発明だった。

人類と液体との関わりで忘れてはならないのが、アルコール(酒)やコーヒー・紅茶などの飲み物だ。これには著者もかなりのこだわりがあり、ワインの風味の蘊蓄や、最高においしいコーヒー・紅茶の淹れ方など、科学の目線で教えてくれる。

液体をミクロスケールで眺めると、興味深いつながりが見えてくる。たとえば、お酒のアルコール(エタノール)の分子特性は水と似ている。だからエタノールは水に溶け、アルコール度数の調整もできる。一方でエタノール分子は、体内の細胞を覆う脂質分子の膜(細胞膜)とも似ており、その防御をかわして血流に入り込める。こうしてアルコールは私たちを酔わせ、疾患をもたらしたりもする。

固体らしい弾性と液体らしい粘性を兼ねた性質は「粘弾性」と呼ばれる。ゴムやジェル、バターなどが分かりやすい例だが、これが体液となるとひどく嫌われる。どろりと垂れたよだれや鼻水など、もうじつに気持ち悪い。健康に役立つ唾液が、なぜ体外で目に付くと嫌悪感をもよおすのか? 一方、舗装に使われるアスファルトはこの性質で、道路の亀裂を自己修復している。 

液体の海がなければ生命も誕生しなかったろう。地球の真ん中にある核の芯は、液体が固体化した巨大な金属結晶で、その周囲を液体金属が流れている。その上に載っているマントルは、岩石の層なのに、液体のようにゆっくりと流れている。そして、地球温暖化により北と南の氷のどちらが先に溶けるかで、人類の運命は分かれるだろう。

石器時代の道具から最先端のラボオンチップ医療革命までーー本書は材料を生みだし、材料に生かされてきた人類のイノベーションの物語でもある。ビル・ゲイツ氏の評するように、まさに「軽妙にして明晰」。多くの年間ベストブックを獲得した前作『人類を変えた素晴らしき10の材料』と同じく、愉快なエピソードとともに、材料の科学と歴史・未来について学べる好著となっている。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『決定版-HONZが選んだノンフィクション』7/7いよいよ発売!

人気記事