事実と向き合った時に引っかかるもの、そこに事件の深い闇がある 清水 潔 ✕ 石井 光太
『「鬼畜」の家』刊行記念イベント

2016年10月1日 印刷向け表示
 

©新潮社

清水: 取材では、映像のテレビも活字のノンフィクションも同じで、考えられる取材は全部やるんです。あらゆる関係者をひとりずつ当たっていき、線でつないで関係図を作る。石井さんも、そういう取材をやられたでしょう。同じです。

ただ、取材行為と、本を書くこと、報道をすることはまた別なのです。たくさん「取材」した中から、何が分かって何が分からないのかなどを様々「分析」して、それをいつ放送するのか、本に書くのかの手段やどこまで書くかを決める。まだこれは無理だという決断をすると、分析に戻り、また取材に戻る。「取材」「分析」「決断」の繰り返しです。

テレビの場合は「多くの人たちの役に立つかどうか」、つまり公共性・公益性を特に重視します。その基準は茶の間で多くの人が見るテレビと、読みたい人が自分の意思で読むという本とでは違うため、どこまで伝えるかその内容も大きく変わってきます。

事実と向きあっていると何か引っかかるものがある

石井: そうですね。マスメディアと活字のノンフィクションは、まったく違う媒体なのでどっちが良いか悪いかということは言えないとは思います。それぞれ違うものですから。僕が本で意識しているのは、事実の中にある「僕が気になる部分」ですね。現場に残されていたものでもいいし、犯人の発した一言でもいい。事実と向き合っていると何か引っかかるものがあって、それが事件の深い闇を象徴していることがある。たとえば、下田市の事件では、犯人の高野愛は赤ん坊の遺体を天井裏や押入れに隠して、それぞれを「天井裏の子」「押入れの子」と呼んでいました。産んですぐに殺してしまったので、名前がないんです。それで「天井裏の子がかわいそうって思ってました」とか言うんです。なんというか、その呼び方の異様さですよね。それは本人の異様さにもつながるわけですが。

 

清水: あの「呼び名」に拘ってちゃんと書くことがとても大事です。結構聞き流してしまう記者が多いところです。

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