事実と向き合った時に引っかかるもの、そこに事件の深い闇がある 清水 潔 ✕ 石井 光太
『「鬼畜」の家』刊行記念イベント
清水: 石井さんには、子供をテーマにした作品が多くありますね。『レンタルチャイルド』『神の棄てた裸体』『浮浪児1945』……子供に何かこだわりがあるんですか。
石井: 自分ではまったく意識していませんでしたが、確かに『レンタルチャイルド』はインドのストリートチルドレンのことですし、『浮浪児1945』は戦後の浮浪児を扱っています。
僕のテーマは、あえていえば「それでも生きる」ということなんです。戦後の貧困の中で孤児として生きる人々――その姿に美しさを感じたからこそ、書きたかった。あるいは貧しい国の中でストリートチルドレンとして生きている子供たちの姿です。今回の本では、子供が死ぬ前の親との触れ合いに美しさを感じるところがありました。齋藤理玖君は、暗闇の中で、父親にエロ本をちぎってもらい、それを紙吹雪にして遊ぶことが好きでした。僕はそこに、切ないんだけれども「それでも生きる」という姿を見出してしまうんです。結局は、殺されてしまったので、「生」が存在しなくなるという意味では、これまでの僕の本とはまったく違うとは思いますが。
清水: なるほど。たとえば近所の人の「子供とよく遊んでいましたよ」なんていう証言もと 書かれていますよね。我々のような分単位でニュースを作るテレビ記者になると、「その話はちょっと関係ないな」と判断して使わないとか、浅はかですが、「あの人ならやると思ったんですよ」といったようなコメントに飛びつきがちです。一方で、石井さんの本は、公平です。僕も本を書いていますが、「これを書くと、話の筋が分かんなくなっちゃうんだよな」といった部分でエピソードを端折ることもあり勉強になりました。これからは犯人といえども、いいところがあれば書いてみようかと思っています。
石井: なにより、親に殺されてしまった子供たちは、生まれてきた痕跡が消されてしまいます。せめて作品という形で、彼らがこの世に生まれてきた証を残すことができたら、と思います。それでもし虐待事件を一件でも減らすことができれば、彼らが生まれてきた意味ができるわけですから。(了)
数々の事件を追い続けてきた清水潔さんが戦後70年の節目に挑んだのが、「南京事件」だ。取材の成果はNNNドキュメント「南京事件~兵士たちの遺言~」(日本テレビ・2015年10月4日)として放送され、大きな反響を呼んだ。最新刊『「南京事件」を調査せよ』は、放送時間の制約から番組では出し切れなかった情報と取材の裏側を丹念に書いている。徹底した取材が著者自身の「肉親と戦争の関係」にまで及ぶ迫真のノンフィクションだ。こちらも合わせて目を通すと、事件取材や調査報道の真髄が味わえるだろう。