『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』面白い本を読んだら、誰かと話したい!刊行記念イベントより

2018年4月25日 印刷向け表示
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人の日記を盗み読むような面白さ

ーーそして3冊目は、すごいのが来ましたね。『大旅行記』ということで、全8巻。

大旅行記〈1〉 (東洋文庫)

作者:イブン バットゥータ 翻訳:家島 彦一
出版社:平凡社
発売日:1996-06-01
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高野:これは本当に、よく読みました。表紙が全部同じなんですよ。しかも注がものすごくて、注を見ると第何巻の何ページの注を見ろとか書いてあるんです。だから、全部置いとかなければならなくて。で、これ夏の時期だったんですよね。

清水:ええ。夏休み、わが家の居間には常に『大旅行記』8冊が(笑)。

高野:僕は自分の部屋の床に並べて、床に座って読んでたんですけど、突然5巻を見ろと書かれていても、どれが5巻か分からなくて、よく見たら4巻だったりして。

水:「ああ、4だ」とかって(笑)。

高野:まるで神経衰弱(笑)。

ーーこれは高野さんのセレクトですよね。

高野:そうですね。

ーー清水さん、困ったでしょう?

清水:ビックリしましたよ。でも、こんなことがなければ読まない本ですね。

ーーそういった意味では、こういう本って読書会向きですよね。義務感がないと読まないですもん。僕も、今回紹介されている本の中でこれだけは絶対読まないと思いますから(笑)。

清水:いい本ですよ。これが一番盛り上がりましたよね。

高野:盛り上がった。

清水:この本ばっかりは、読書会の時間が足りなかったくらい。まあ、そりゃ8冊ありますから(笑)。

高野:だって8冊も読んでいるわけですよ、ウルトラマラソン終わったあとみたいな感じ。

清水:そう。終わったあとのビールがおいしいのなんのって、大変なものですよ。

高野:「いや、あれすごかったですね」みたいなね、もう。

清水:そう。「何ページのイブン・バットゥータ覚えてます?」。「あそこ笑いましたよね」みたいな話で。

高野:だいぶ盛り上がっちゃって。

清水:我々しか分からない(笑)。

ーー全8巻を読むのに、お互いどれぐらいかかったんですか?

清水:私は夏休み1か月、ひと夏。

高野:僕は2週間ぐらいで。でも途中、主人公出ないですから、この辺はあまり面白くないだろうってところを斜め読みしながら。

ーー清水さんも、これまで読まれたことはなかった?

清水:なかったです。これ実は角川文庫から短いダイジェスト版が出てるんですよ。前嶋信次さんの『三大陸周遊記』というタイトルで、今は中公文庫に移ったのかな。最初、それを読もうと言ってたんですよね。それなら1冊だからいいだろうと言ったら、高野さんはもうこっちを読み始めてる。

ーーストイックですね(笑)。

清水:で、高野さんが8冊読んでいるのに僕がダイジェストですますわけにもいかないので、あとから追っかけて。

高野:ダイジェストじゃダメでしょう(笑)。

清水:うん。僕も、今だから言えます。ダイジェストじゃダメです(笑)。やっぱりこれで読まないと。

ーーこういう昔に書かれた本って、当時は常識だったことが省かれたり、けっこうむき出しの状態にされているから、読みづらかったりすると思うんですね。そういう読者サービス的な観点からいくと、この本はどうですか。

清水:いや、そもそも読者をまったく想定していないということではないですが、いわゆる文学作品みたいなのとは違いますからね、サービス精神は期待しちゃいけないです。

ーーなるほど。パーツパーツのネタとしての面白さというか、そういうところが魅力ですか?

清水:人の日記を盗み読むみたいな感じの面白さですね。

ーーけっこう赤裸々なことが書かれているんですよね、この本は。

清水:ええ。書いてる人が必ずしも面白いと思ってないことを我々は、「あ、こんなこと書いてる」と言って喜ぶ、だから、普通の本の読み方とちょっと違うかもしれないです。

高野:内藤さんの言ってた、むき出し感が面白いわけですね。

ーーおぉ、むき出し感ですか。マニアですね(笑)。イブン・バットゥータがイスラム圏を旅してたのは、マルコ・ポーロのちょっと後ぐらいですか。

清水:後ですね。ちなみにイブン・バットゥータは足利尊氏の1歳上。

高野:ああ、そうでしたね〜(笑)。それを聞いてから、常にそうやって考えるようになりました。この人、誰と同じぐらいなんだろうって。

ーーイブン・バットゥータは、なぜイスラム世界を周遊することになったんですか。

高野:まず、メッカへ巡礼に行ったんです。もともと良家の若者で、学識もあった。それがメッカ巡礼に行ったら、旅自体が楽しくなっちゃったらしくて、グルグルと。その当時、メッカ巡礼のルートがもうユーラシア大陸中に出来上がってるわけですね。どこに行ってもモスクはあるし、アラビア語を話す人もいるし、泊まるところもあるし、しかもタダで泊まれて、タダメシ食べられたりとか、女性をあてがってもらったり…。

ーー食い物の話と女の話が多いですよね、お二人の拾われてるところが(笑)。

清水:あ、そうですね。

ーーこれ全8巻のうち、何巻が一番面白かったですか(笑)。

清水:5巻です、5巻。インドの話が一番。インドの王様のキャラがぶっ飛んでるんですよね。

高野:もう清水さん、大好きで。

清水:とんでもなくサディスティックな王様で、もう信じられないような拷問や刑罰がいっぱい書かれてるんですよ。

高野:何だっけ、あの、皮を剥いで。

清水:ええ、中に藁を詰めて、それで吊るす。お城の門に入ろうと思ったら白い塊が落ちてるから「何ですか」って聞いたら、「人間の胴体です」って。そんな話ばっかり(笑)。

ーー30年旅行するうち、インドには何年ぐらいいたんですか、この人。

高野:8年ぐらいかな。

ーーけっこうインド長いですね?

清水:いや、基本的にインドから出ていはいけないことになっていたんで。だから、彼はある時期、永住する気だったはずですよ。

高野:当時のインドのイミグレーションというのは、入国の条件が永住なんですよ。そんな国あるのかと思って。

清水:彼自身も、だんだんとヤバい国に来ちゃったなっていうのが分かってくる。この王様、ちょっとおかしいぞって。

高野:大体、癇癪起こして殺しちゃうんですよね。

清水:そうそう。イブン・バットゥータも一回牢屋に入れられてしまうんです。すごく気に入られていたのに、突然機嫌が。だから、織田信長みたいな感じかな。で、お使いで中国に行こうとしたら船が難破して、荷物を全部なくしてしまい、このまま帰ったら絶対殺されるって思って逃げ出す。

高野:そこから急にスリリングになるんですよ。

清水:そう。そこからすごい。とにかく5感から6巻が一番面白い。ぜひ皆さん読んでください。同じ苦しみをぜひ(笑)。

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作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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