2022年 今年の一冊HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

2022年12月30日 印刷向け表示
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HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で12回目を迎えるところとなりました。メンバーそれぞれが好きな本を、好きなタイミングで送ってくるので、毎回順番をどうしようかと頭を悩ませます…。今年は12回目を記念し(?)、基本に立ち返って名字を五十音順に並べてみました。

最大勢力となったのはア行とナ行。ア行が「うんこ→肉→防災アプリ→なめらかな社会→銀河文字」と美しき旋律を奏でれば、ナ行も負けじと「川口浩→介護食→フロイト→金玉→いい子症候群」と華麗にビート刻む。それぞれ一人ずつしかいなかったマ行・ワ行も、来年は仲間集めに勤しむことだろう。

そんなわけで今年も、メンバーそれぞれの「今年最も○○な一冊」を紹介していきます。

アーヤ藍  今年最も「旅にぴったりだった」一冊
作者: 藤岡みなみ
出版社: 左右社
発売日: 2022/8/18
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今年はコロナ禍以来はじめて海外に飛んだ。久しぶりすぎてパスポートの期限が切れていることに直前まで気づかなかったほど、旅の感覚が鈍っていたし、不安もひとしおだった。実際、飛んでからの一人旅の孤独感もずしんと重かった。そんな時心の友になったのが本書だ。

一見パンダの本のように見えて、「自分以外すべて異文化」をコンセプトにしたエッセイ集だ。著者が海外を旅した時のことや、四川人の義理の両親との話など、「THE・異文化」はもちろんのこと、転校を重ねて感じた地域間の違いや、動植物とのコミュニケーション、未知の体験をしたときの発見など、バラエティに富んだ「異文化」の話が紡がれている。

軽やかながら五感を刺激してくるような著者の文章は以前から大ファンなのだが、本書でも各話の光景が目に浮かび、思わず吹き出して笑ったり、肝を冷やしたり、一緒に旅したような気持ちになった。

そんな本書を読んでいると、久しぶりの異国で感じる不安は吹き飛んでいった。生きることは異文化に出会うことの連続。それならば、目の前の異文化よ、どんとこーい!そんな気持ちになったのだ。

「自分と異なる」ものの壁にぶつかったら、ぜひ本書にパワーをもらってみてほしい。

麻木 久仁子 今年最もテンション上がった一冊
作者: 樋口 直哉
出版社: グラフィック社
発売日: 2022/3/8
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おかげさまで今年還暦を迎えました。強がってもいろいろと衰えも感じる、そんな日常で心を癒すのが「ひとりごはん」です。自分のために自分で作って、ひとりで食べるごはんです。家族のために料理をしていたときは結果が大事でした。つまり「効率良く、十分な質と量のものを、予定の時間に間に合うように作って出す」という、いわば結果重視の料理です。が、ひとりごはんは違います。「好きなときに好きなものを、好きなように料理する」いわばプロセス重視の料理です。出来上がりにはこだわりません。むしろうまくいかなかった時の方が、よし次はどうするかなと、それが次の楽しみになります。いま料理のレシピは「簡単・時短・カサ増し・作り置き」でないと見向きもされません。が、いろいろと肩の荷を下ろしてからの還暦ひとりごはん。時間ならあるし、60歳の胃袋にはそんなに入らないのでカサ増しとか作り置きも必要ない。むしろ手間暇をかけたい。プロセスを楽しみたい。

そんな時に手に取ったのがこのレシピ本『低温調理の「肉の教科書」』です。

例えば輸入牛の厚切り肩ロースは、牛がよく動かすところなので味は濃いのですがその分筋があり堅い。それをどうするか。

今回は24時間加熱していますが、48時間程度まで加熱時間を延ばすとさらにやわらかくなります

ミスタイプじゃないですよ。「24時間」です。まる一昼夜加熱、です。

豚肉なんかも厚切りかブロックか、ロースか肩ロースかバラ肉か、ある程度の歯応えが欲しいかフォークでほぐせるほど柔らかくしたいかなどなど、それぞれに加熱の温度や加熱時間などが詳細に示されています。

豚バラ肉(ブロック)
やわらかいが、歯応えがある 72度24hr
フォークでほぐせるやわらかさ 80℃ 7hr

と言った具合です。

薬膳では骨つき肉をよく使うのですが、鶏の骨つきもも肉にはこんな記述が。

骨の周りの肉は筋肉と骨を固定するための結合組織=コラーゲンが豊富で、堅いという弱点があります。コラーゲンを分解するために長時間低温加熱すれば、やわらかさと味の濃さ=ジューシーさを両立でき〜(中略)〜今回は68℃で3時間加熱していますが、75℃、82℃という具合に食感を変えてもいいでしょう

ああ。もうやりたくなるじゃありませんか。

ことほど左様に、なぜこうするか、その根拠は何かが事細かく書かれており、さながら科学の教科書のようです。実験の手引き、的な。

といって理屈ばかりではなく、「レシピ本」として、とにかく美味しい料理のレシピがぎっしり。バーボンウイスキー風味とか、チミチュリソースとか、ロメスコソースとか。なにそれ作りたい。付け合わせのレシピも豊富です。

というわけで、テンションが上がります。

「いっちょやってみるか!」という気分になります。

今年最も「テンション上がった」一冊です。

東 えりか 今年最も「若者に期待した」一冊

気が付いたらTwitterでフォローしていた「特務機関NERV」という情報サイトの開設から現在までの12年の軌跡を辿った一冊。最近では何か災害が起こると最初に見るサイトで、スマホのアプリも同時に開いている。

「新世紀エヴァンゲリオン」から名を取ったこのサイトは当時20歳の石森大貴という大学生が開設したことを本書で初めて知った。

東日本大震災のあと、Twitterをはじめとしたネット情報によって多くの人命が助かったのは間違いないが、同時ひどいデマも拡散してしまった。その中で信頼に足る情報に辿り着くのはとても難しかったのだ。

そんななか知った「特務機関NERV」は必要な情報を必要なだけ取る目的にとてもあっていた。ここが一個人の思いで作られ、その思いを共有する若者たちによって運営されていることに驚かされる。

どの章も魅力的だが、特に、このサイトで使われる地図などの作画が色覚異常を持つ者でも見やすく作られていることに興味を持った。石森本人が対象者であったためだというが、カラーバリアフリーの有効な活用が詳しく説明されている。

今後目標としているのは、全国のハザードマップのデジタル化だそうだ。毎年大災害が続く日本ではどうしても必要なことだ。さらなる飛躍を期待する。

足立 真穂 今年最も「熱い」一冊

今年もさまざまに本が出て、出版を生業にする私の場合は「出して」も加わって、「読んで読まれて」の一年でありました。個人的に楽しかったのは、3年ぶりの海外への旅、ラオスに出かけてのんびりできたことでしょうか。久しぶり過ぎて、パスポートを持つ手が震えましたが、コロナ禍を経て違う世界に足を運ぶと、また別の景色が見えました。

というわけで、別の景色を見せてくれる一冊として、スマートニュースのCEOの鈴木健さんの『なめらかな社会とその敵』(ちくま学芸文庫)を今年の一冊にあげておきます。実は2013年に刊行された単行本(同名タイトルで勁草書房から)は大いに話題になり、版を重ねていたもの。研究者としても知られる鈴木健さん、漏れ聞こえてくるところによると、文庫化にあたり、数十人体制での査読チームができ、加筆は2万数千字とか。丁寧に手をかけて刊行した後は、トークイベント多数、発売一カ月で重版、年明けにもイベントがあるとか。周りも含めてとにかく熱い!

それもそのはずで、文庫版のまえがきには「本書の内容は2000年ごろに構想され、13年間の研究生活の集積として10年前に出版された。もともと300年後の読者に向けて書かれたものであるから、100年の歴史に耐えられるものと自負している」とあります。9年や10年、もとい100年だって、関係ないのです。

次の時代の景色を見せてくれる一冊。年末年始に大いにふさわしい熱さです。数式も多少入っていますが、著者ご本人も「スルーでよい」とのことなので、ぜひトライ! 考えてみたことのなかった世界をのぞいてみてください。

新井 文月 今年最も「集大成となった」一冊
作者: 新井文月
出版社: 株式会社アトリエ新井文月; 第2版
発売日: 2022/12/1
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HONZと同時に芸術家の活動を展開して早10年、今年はついに初作品集が発売されました。各界の著名人より寄稿文をいただき、すでに第一版は完売。こうして形になることができ、感謝申し上げます。

以下紹介文より。

宇宙の声を反映させた「銀河文字」を描く現代アーティスト新井文月。本書は著者の10周年の活動を表した作品集であり、世界中で展示を開催する稀有な芸術家の哲学を垣間見ることができる。著者は精神がダイレクトに作品に反映するものと考え、そのため普段は滝行や法螺貝を吹くなど修行を重ね、自我を超越した作品を制作し続ける。実際の作品からは銀河のエネルギーそのものを体感でき、本作品集にもその感覚が伝わってくるだろう。

寄稿文:アンドレアス・クラフト(ベルリン芸術大学教授)
久保田 晃弘(多摩美術大学美術学部情報デザイン学科助教/同アートアーカイヴセンター所長)
吉森保(大阪大学栄誉教授。オートファジー研究者)

鎌田 浩毅 今年最も「科学って凄いと思った」一冊
作者: カルロ・ロヴェッリ
出版社: 河出書房新社
発売日: 2022/2/19
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古代ギリシャにアナクシマンドロス(紀元前610年頃~546年)という革命的な哲学者がいた。彼は地球が宇宙に浮かんでいることを世界で最初に考えついたのだが、この根底にある視座は最先端の自然科学まで繋がっている。本書ではそれがどのように現代物理学の豊穣をもたらしたが熱く語られる。

イタリア生まれの著者は「ループ量子重力理論」という物理学の教科書に載る大理論で有名な世界的な研究者だ。物理学はミクロの原子からマクロの宇宙まで記述する基礎科学だが、一般人には結構むずかしい。

そこで著者は既に『すごい物理学講義』(河出文庫)という優れた入門書も書いている。物理の歴史をたどりながら宇宙の起源まで解説した本だが、その前に出した『時間は存在しない』(NHK出版)もベストセラーだ。本当に専門を理解している学者が啓発書を書くとこんなに分かりやすい、という点で「科学の伝道師」を標榜する評者も大いに参考になった。

さて、本書はアウトリーチ(啓発・教育活動)に長けた著者が、ギリシャ時代から現代まで人類が積み上げてきた「科学的思考」の本質を、初学者にも分かりやすく見事に解説した。よって、題名は「科学とは何か」なのである。

驚くべきことにアナクシマンドロスが紀元前6世紀に考えた気象や大地や生物の本質は、後世のニュートン・ダーウィン・アインシュタインらが発見した科学的事実とさほど矛盾がない。

すなわち、実験器具なしに「素手で」思いついた描像が、ルネッサンス以降に科学革命を導いた天才科学者たちが知恵を絞って見いだした「モデル」そのものなのだ。これは古代ギリシャの知性がいかに優れていたかとともに、いったい人類は本当に進化してきたのだろうか?という根源的な問いを我々に突きつけてくる。

現代社会はすべて物理学を基本に動いていると言っても過言ではない。スマホもエアコンも新幹線も、現象を支配する法則は物理の式で表現される(拙著『一生モノの物理学』祥伝社)。ところがそれが読める人は極めて少なく、理解できないまま気にせず便利に使っている。

実は、これから巨大地震が起きてライフラインがすべて止まると、こうした快適な生活は直ちに瓦解する。日本人の約半数に当たる6000万人が被災する南海トラフ巨大地震は2035年±5年に襲ってくる(拙著『知っておきたい地球科学』岩波新書)。そうした危うい社会に暮らしている現実に気づくためにも、電気のなかった古代ギリシャ最大の「知性」に触れることは非常に意義深いと思う。

地震や噴火が頻発する「大地変動の時代」に警鐘を鳴らしてきた評者からも是非一読を勧めたい。理工書を敬遠してきたHONZ読者にも「科学ってけっこう凄いじゃん」と思っていただける好著である。

久保 洋介 今年最も「身震いした」一冊
作者: エドワード ミラー,Edward S. Miller
出版社: 新潮社
発売日: 2010/7/1
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2022年は「ロシア銀行のSWIFT排除」「ロシア中央銀行の資産凍結」「ロシア産エネルギー商品の輸入禁止」といった欧米による金融・経済制裁やロシアによる対抗措置に翻弄される一年だった。

経済やエネルギーは平時には人々を豊かにするが、戦時下では戦略物資となることをまざまざと感じさせられた。対ロ金融・経済政策を日々ニュースでみながら、ある本を思い出して手に取ってみた。

『日本経済を殲滅せよ』、アメリカの中堅・若手官僚による第二次世界大戦時の対日経済・金融政策の実態に追った一冊だ。12年前の2010年に翻訳版が発行された一冊だが、改めて読んでみて身震いがした。足もとでおこっていた欧米による対ロ経済・金融制裁と、1930年代後半に行われていた対日制裁が瓜二つだったのだ。

相手国の「破産の日」を予想したり、相手国のアキレス腱を研究する「脆弱性の研究」など、今も80年前と似た手法で欧米官僚は経済・金融制裁を練っているのだろう。

中国やイランや北朝鮮といったアメリカに目をつけられた国々は本書を読んでよく研究しているに違いない。激動する国際政治経済状況で改めて読む価値ある一冊だ。

栗下 直也 今年最も「タイトルだけで買った」一冊
作者: ロマン優光
出版社: コアマガジン
発売日: 2022/9/2
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少し前まで僕たちには共通前提があったはずだ。「悪そうな奴はだいたいトモダチで、嘘みたいな本当の話はだいたい嘘」と。

ただ、どうだろうか。コロナ禍になっても悪そうな奴はだいたいトモダチな一方、嘘みたいな本当の話が嘘ではなく本当ですとばかりにSNS上でデカい顔をしている。いわゆる「陰謀論」だ。本書はそうした類の話を一度総括した本らしい。「らしい」、と書いたのは実はこの本を読んでいない。

「おい、読まない本を取り上げるのかよ。嘘だろ」と突っ込まれそうだが、嘘ではない。これこそ、嘘みたいな本当の話だ。

考えてみれば、HONZの前身は読んでいない本をおもしろそうに紹介する謎の集まりだった。それも平日の早朝に。部外者から見たら完全に変態の集会だったが本人たちは面白かったのだ。というわけで、2023年は原点を思い出し、積ん読上等で本と酒にまみれたい。

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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!

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