2022年 今年の一冊HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

2022年12月30日 印刷向け表示
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塩田 春香 今年最も「裏切りと期待に満ちた」一冊
作者: 佐々木ランディ
出版社: エクスナレッジ
発売日: 2022/3/2
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沈没船――莫大な財宝と共に、深い海の底に横たわる船体……、などとベタな想像をして私は本書を手に取った。が、見事に裏切られた。もちろんよい意味で。

水中遺跡といえば鎌倉時代の元寇船発見は記憶に新しいが、坂本龍馬が乗っていたいろは丸、榎本武明や土方歳三とゆかりの深い開陽丸、トルコを親日国にしたといわれるエルトゥールル号等々、本書には歴史上有名な船が続々と登場する。

著者の佐々木ランディ氏は、アジアの多くの水中遺跡を調査してきた水中考古学者。声なき水中遺跡から歴史を解き明かそうとする知的探求には、財宝などどうでもよくなるくらい、わくわくさせられた。

ところが、である。たまたま著者とお話する機会があり、「壇ノ浦に沈んだ三種の神器、出てきませんかねえ」と話を振ったら、「漁師の網で引き上げられて、錆びた刀だーと子供がチャンバラごっこしてパキーンと割れて捨てられた、みたいな感じかもしれませんねえ」。

ひええええええ~! 日本は島国でありながら、水中遺跡に対する関心が低く、保全が急務ということだ。海岸線のほぼ半分が埋め立てられている日本では、人知れず貴重な遺跡が消し去られている可能性も高い。残念すぎないか、日本?

ところで、本書は「今後見つかるのではないかと思われる遺跡」の筆頭に南極シャクルトン探検隊の船・エンデュアランス号を挙げている。そして今年、実際にそれは発見された。本書のタイトル通り、まさに「水中は最後のフロンティア」。遺跡の保全を切望しつつ、研究の進展に期待をさせる好著であった。

首藤 淳哉 今年最も「八王子が凄いと思った」一冊
作者: 山内マリコ
出版社: マガジンハウス
発売日: 2022/10/27
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今年ほどユーミンの曲を聴き返した年はなかったかもしれない。デビュー50周年をラジオ業界あげて盛り上げたためだ。本書は日本のポップスシーンを変えた才能がいかにして生まれたかを描いた一冊。「小説ユーミン」とあるが、本書に寄せたコメントでユーミンは、「ルポルタージュに近い」と言っている。彼女がまだ何者でもなかった時代をあざやかに再現した作品だ。

ユーミンの運命を決定づけたのは、八王子の呉服店に生まれたことだったと思う。「桑都」と呼ばれるほど養蚕や機織りが盛んで、生糸の集散地として大いに栄えた八王子は、立川基地にも近く、店では洋裁部がアメリカ人将校夫人のオーダーも請けおい繁盛した。

裕福な生家でユーミンは何不自由なく育った。ピアノ、清元、絵画、映画、歌舞伎といった豊かな文化資本が、のちの「荒井由実」を形成した。時代や場所が違えば、荒井由実は音楽史に登場しなかったかもしれない。

「ひこうき雲」の秘密を本書で初めて知った。名曲の誕生には小学生時代のある体験が関わっていた。考えてみれば、この曲もまた八王子でなければ生まれなかったかもしれない。天才を育て名曲を生み出した街。八王子はつくづく凄いところである。

田中 大輔 今年最も「飲みたくなった」一冊
作者: 鳥海美奈子
出版社: さくら舎; 初版
発売日: 2022/11/10
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HONZに入ったときにはまったくお酒が飲めなかった私ですが、近頃はセラーが家にあるくらい、お酒に狂ってます。お酒を飲むようになり、本を読む時間は激減。昨年のこのコーナー以降、一度もレビューを書かずに1年が経過してしまいました。読書量は減りましたが、日本酒やワインに関する本は読んでいます。そんな中で読み終わってすぐに飲みたい! と思った本が『日本ワイナリーの深淵』でした。

ここ数年、日本ワインのブームが続いています。10年で日本のワイナリー数は約190軒(2010年)から410軒(2021年)と倍増しているそうです。それゆえ玉石混交な状態なのですが、数あるワイナリーの中から信頼に足る12のワイナリーを本書では紹介しています。ドメーヌ・タカヒコや、ドメーヌ・オヤマダといった、日本ワインを牽引しているワイナリーの生産者が、底知れない奥深さを秘めるワインづくりを熱く語っている1冊です。

「ワインづくりは、農業としての芸術表現だ」というドメーヌ・オヤマダの小山田幸紀さんをはじめ、各ワイナリーの人となり、ワインづくりへの情熱が見えてきて、本書を読んだことで日本ワイン熱がよりいっそう高まりました。日本ワイン“中興の祖”ブルース・ガットラヴさんは言います「日本にワイン文化ができたというのは、まだ早すぎると思います。いまはその基礎をつくっている段階ですね。(中略)そんな入り口の段階だからこそおもしろいし、刺激的だともいえます」そんな刺激的で楽しい日本ワインの世界に、あなたも足を踏み入れてみてはいかが? ただ日本ワインは沼です。要注意!

刀根 明日香 今年最も「ブラボーなタイトルを持つ」一冊
作者: 永田豊隆
出版社: 朝日新聞出版
発売日: 2022/4/20
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伝えたいことがあるから書く。純粋な動機に心を打たれた一冊だ。

本書は、朝日新聞記者である著者と、その妻の約20年間を綴ったものだ。妻は29歳、結婚4年目の年に摂食障害と診断される。そこから、アルコール依存や水中毒などあらゆる症状に見舞われ、入退院を繰り返す。著者は、仕事を続けながらも、妻と共に過ごすことを選ぶが、経済的困窮や罵倒や暴力に耐える日々を過ごし、精神的にも参ってしまう。

私の印象に残っているのは、読み終わった時に泣いてしまったこと。それは、日々の”厚み”を感じたからだ。結果どうなったとか、著者がどれほど辛かったとか、そういうのじゃなくて、毎日を一生懸命過ごしてきた著者と奥さんを思うと涙が出た。一緒に彼らの人生を振り返った感じだった。

寄り添ったわけじゃないけれど、赤の他人だけれど、この日々を記録として残さずにはいられない著者の気持ちが分かった。死と隣り合わせ。決して慣れることのない毎日。

最後まで、二人でいてくれたことに、心から敬意を表したい。

そして、こんな前向きでかっこいいタイトルを付けてくれて、最高にありがとう!

内藤 順 今年最も「半信半疑な」一冊
作者: プチ鹿島
出版社: 双葉社
発売日: 2022/12/22
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冒険もの、探検ものというジャンルの中で、今年最も光っていた一冊だと思う。そもそもジャンルの存在自体、近年苦しい状況になっている。もはや誰も行ったことのない未知の場所など残っていないに等しいし、ましてや最近のコロナ禍で、旅行すらままならない。

そんな中、この手があったかと思わせてくれたのが、本書『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』である。ある世代以上の人なら誰もが知っている『川口浩探検隊』とその裏側の怪しさ。当時の舞台裏の真実を探検さながらに追いかけ、テレビとは何か、ドキュメントとは何かまでを描き出した快作である。

とはいっても、著者は「やらせ」を断罪するだけといった無粋なスタンスは取らない。どこまでもこの現象をプロレス的に面白がり、登場する人物も、替え歌で番組に正面からツッコんだ嘉門達夫、番組に影響を受けて探検家になった高野秀行から、当時の放送作家やプロデューサーまで、多士済々だ。

さらに出てくる話題も、アフタヌーンショーやらせ事件、徳川埋蔵金、ロス疑惑から旧石器発掘捏造事件まで、いかがわしさ満載のネタばかりなのである。そして著者は、このいかがわしさに対処する最良の方法が半信半疑というスタンスであると説く。

信じるだけでは妄信となり、不信だけでは味気ない。コンプライアンス全盛の世の中において、多くの人が忘れかけているものをまざまざと思い出させてくれる一冊だ。

仲尾 夏樹 今年最も「お世話になった」一冊
作者: クリコ
出版社: 日経BP
発売日: 2017/7/13
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料理研究家・介護食アドバイザーのクリコさんが、口腔底がんになった旦那さんのために”おいしい”介護食を作ろうと奮闘するノンフィクション。クリコさんが介護食を作り始めた2012年当時、市販品はおいしくなく、レシピ本もイマイチだったため、自分で一から作り始めたそうです。おいしいものを食べるということは人に生きる希望を与えます。クリコさんの旦那さんに対する愛を綴った本書は涙なしに読めません。

2017年発売の本書を今年の一冊にしたのは、この夏、本当にお世話になったからです。家人が新型コロナウイルスに感染し、数日間喉の痛みで食事もままならない時、こちらのレシピを参考に料理をしていました。鮭のクリームシチューや蟹のポテトクリームグラタンなどは、病人も健康な人もおいしく食べられる、すばらしいレシピです。

本の表紙にある「食べることは生きること」という一文は、食べることが大好きな私にとって本書を手に取るきっかけとなりました。20代半ばの当時、親の介護もまだ先のことだし、自分が介護食を作るイメージがまったく湧かなかったのです。それがこんなにも早く役立つ日が来るとは思いませんでしたが、今年最もお世話になった一冊となりました。

中野 亜海 今年最も「フロイトを身近に感じた」一冊
作者: ブレット・カー
出版社: 人文書院
発売日: 2022/3/24
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本書は、フロイト研究の第一人者が、あの世からフロイトを呼び出して一緒にコーヒーを飲みながらインタビューするというものである。フロイトは、みなさんご存じの通り「精神分析の創始者」だ。「え、カウンセリングってその前ってホントになかったんだ、フロイトってすごいものつくったな」と私は大学の心理学の講義で思ったことがあるが、「心の病を治す」道筋を最初に作った人ってどんな人なんだろうか、という疑問に答えてくれる本だと言える。

この時代、医者は一切患者の話を聞かず、心の病なんてお医者さんの領分ではなかった。そんな患者は気味の悪いものとして追い払われていたが、フロイトは歴史上はじめて「患者の話を聞いた」医師だったことに焦点があたる。また、フロイトは白衣もやめ、普通の服を着て診察をはじめたが、それも患者が話やすくするためであったという。「現代では、元警官や、元タクシー運転手の非常にすぐれた臨床家がいます」という言葉に「歴史的快挙だ、それこそがいつも私が望んでいたことだ」と話すフロイトに、現代のケアと当事者の話にもつながる流れを感じた。ユダヤ人のフロイトが、世界大戦前の大混乱のウィーンで、必死に身を立てようとしている話を生い立ちから聞くことも時代が感じられてとても面白い。

仲野 徹 今年最も「キンタマが縮み上がった」一冊
作者: 西川 清史
出版社: 左右社
発売日: 2022/11/30
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『世界金玉考』、なんとすがすがしいタイトルの本なんだ。キンタマについてさまざまなことを紹介し、考察が加えられていく。まずは、医学的にキンタマとはどういうものであるか。で、つぎは「キンタマ言語学」で、世界各国で睾丸がどういう俗語で呼ばれているかを調査する。インド料理店でいきなり店員にキンタマの図示して尋ねては変態と間違われたりする。って、あたりまえやろ。

他に明治維新とキンタマの関係やら、キンタマを食す話などなど、じつにさまざまな話が紹介されている。そんな中、恐ろしすぎるエピソードは「江戸時代にあった『陰嚢蹴りの刑』」である。

スポーツなどでキンタマを強打するといかに痛いかが解説された後、この話へと進む。囚人たちから忌み嫌われていた岡っ引きが牢屋に放り込まれた時などにおこなわれたという。十日間も板でキンタマをうち続け、その末に殺してしまう。もちろん公的な刑罰ではなく、牢名主が命じたリンチである。

そんな恐ろしい本、いやや、と言うなかれ。文豪たちがいかに美しく睾丸や陰嚢を描写してきたかを知ると、キンタマの皺が伸びる心地がしてくるはず。キンタマリテラシーが飛躍的に向上する一冊、役にたつかといわれたらノーやけど、おもろい!

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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!

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