『風の森を醸す』風の森と日本酒の歴史

田中 大輔2021年10月29日 印刷向け表示
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風の森を醸す―日本酒の歴史と油長酒造の歩み (あをによし文庫)
作者:山本長兵衛
出版社:京阪奈情報教育出版
発売日:2021-09-30
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清酒発祥の地、奈良県に「風の森」という日本酒を醸す酒蔵がある。その名を油長酒造という。今年で創業300周年を迎えた酒蔵だ。300周年を記念して蔵元の山本長兵衛が日本酒と油長酒造の歴史、そして「風の森」の魅力を記した本を発売した。

コロナ禍になる前、私はイベントによく日本酒を持っていっていた。その時によく持っていっていた日本酒の一つが「風の森」だった。日本酒をあまり飲んだことがない人にも、おいしいと思ってもらえるお酒の一つだと思う。特に「風の森ALPHA 1」というお酒をよく持っていった。

「風の森ALPHA 1」は四合瓶(720ml)で1265円(税込み)と、とてもお手頃で、コスパが最高によいお酒だった。シュワシュワしたガス感があり、果実味も豊かでおいしい。しかもアルコール度数が12度と低いこともあって、日本酒を飲んだことがない人にお勧めできるお酒だ。私も日本酒を飲み始めた頃には「風の森ALPHA」には大変お世話になった。

清酒の発祥の地を標榜している地域は4つある。出雲(島根県)、播磨(兵庫県)、大和(奈良県)、伊丹(兵庫県)だ。出雲は「古事記」の中で、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治するときに使った「ヤシオリの酒」がある。播磨は奈良時代初期に編纂された「播磨国風土記」の中に記述があり、伊丹は江戸時代後期の「鴻池稲荷祠碑」に、酒を大いに売ったという漢文が刻まれているそうだ。奈良県はというと、室町・戦国時代に「諸伯(もろはく)」と呼ばれるお酒が生まれたことにより、清酒の発祥の地をうたっている。

奈良県では平城京内の造酒司(さけのつかさ・みきのつかさ)の遺構で見つかった木簡から、国立の醸造所でお酒を造っていたことがわかっている。また平安時代の『延喜式』にも宮中の造酒司で作られた15種類のお酒のつくりかたが記述されているという。

室町時代初期の『御酒之日記』には大阪の天野山金剛寺の「天野酒」や、奈良の菩提山正暦寺の「菩提泉」といった僧坊酒がつくられていた。そのような僧坊酒が、現代の清酒にあたる「諸伯」へと進化する過程には以下の5つの技術革新があったという。

①精米(白米の使用による酒質の向上)
②上槽(酒質の安定化)
③火入れ(酒質の安定化)
④酒母(生産性向上)
⑤段仕込み(生産性向上)

そのなかで、酒母と段仕込みの話がとても興味深かった。室町・戦国時代までは甕や壺でお酒を造っていた。それが1500年代になると、木桶が登場し飛躍的に生産量が増えたという。いきなり大きな木桶で酒造りをすることはできないので、まずは小さな容器で酒を造ることになる。これが酒母という考えのもとになった。そして小さな容器で作った酒を木桶に入れ、そこに原料を段階的に入れることによって量を増やしていく。これが段仕込みという考えのもとになったという。現代の酒造りは酒母を用いて、三段仕込みで作っているところが多い。その原型がつくる量を増やすために生まれたものだというのはおもしろい発見だった。

ところで、仏教には「不飲酒戒(ふおんじゅかい)」という戒があり、僧侶はお酒を飲むことが禁止されている。それなのにお寺がお酒を造っていたのはどういうことなのだろう。室町・戦国時代になると、大寺院は朝廷や幕府からの財源に頼ることができなくなった。寺院を経営していくための財源として現金収入を得る必要性が出てきたのだ。そこで正暦寺はお酒を造って販売してお金を稼いでいたそうだ。

昔の正暦寺には神社がいくつも点在していたそうで、平安時代から長い間、寺内の鎮守社や天部の神様に備えるお酒を作っていたという。そういった背景もあり、お酒造りの技術が蓄積されていたというのだ。驚くのが酒造りによる儲けの多さだ。『大乗院寺社雑事記』によると、正暦寺は多いときで、興福寺に税金として銀300貫を収めていたという。これは現代の金額に換算すると19億~20億に相当するというから驚きだ。税金でそれだけということは、いったいお酒でいくら稼いでいたのだろう?

もうひとつ、おもしろいと思うのは西欧では教会がビールやワインを作っていた。同じように、日本ではお寺が日本酒をつくっていたという類似点。宗教とお酒って切っても切り離せないものなのかな?と思ったけど、結局のところどちらもお金が必要だから作ってたのよね。なんて歴史を知ったうえでお酒を飲むとより、よりおいしく飲めるんじゃないかな?ただお酒の席でこういった蘊蓄をひけらかすのは迷惑なので厳禁です。

The World of ARAMASA 新政酒造の流儀
作者:
出版社:三才ブックス
発売日:2021-04-20
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 風の森と共にイベントによく持っていっていたのが新政No.6というお酒。
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作者:成毛 眞
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